ウェブの「受託開発」が面白くないという8つの誤解

ぼく自身は多くのベンチャー企業とかよりよっぽど面白い仕事を「受託開発」でやってきているので(あ、もちろん「面白い」というのは主観的な問題だとお断りしておきますが)、ウェブ業界にはびこる「受託開発はダサい」という思想に強い反発を持ってきました。今日はそいつらをバッサリ斬ることにします。

ぼく自身は多くのダメなベンチャー企業とかよりよっぽど面白い仕事を「受託開発」でやってきているので(あ、もちろん「面白い」というのは主観的な問題だとお断りしておきますが)、ウェブ業界にはびこる「受託開発はダサい」という思想に強い反発を持ってきました。

今日はそいつらをバッサリ斬ることにします。

これまでに見聞きしてきた「受託開発が面白くない理由」を一つずつ取り上げて検証します。

× 受託開発なんて所詮「自分の事業」じゃないから自社事業がやりたい。
○ 「受託開発」でも「自分の事業」としてコミットすることができる。

契約形態やオリエンテーションや熱意などによってプロジェクトメンバーが所属企業に関係なく「自分の事業」「自分の仕事」として愛着を持って取り組めるような体制作りができます。契約形態の工夫とは、例えばレベニューシェアやジョイントベンチャーなどのことです。

× 自分のやりたいことができない。
○ 自分のやりたい企画を提案して予算をもらう。

クライアントの担当者と一緒に「やりたいこと」かつ「会社の利益になること」かつ「社会に貢献できること」を企画して予算を獲得すれば、「やりたいこと」ができます。

× ありきたりなものしか作れない。
○ イノベーティブなチャレンジに取り組める。

日本のどこにもない、あるいは世界のどこにもないようなものを企画し、設計し、実装していくことができます。

× 代理店や大手SIerの下請けで面白くない。
○ 元請、直接取引なら能力を存分に発揮できる。

直接やったほうが、契約、提案、企画の余地が大幅に大きいので楽しい仕事になります。

× 頭を下げて仕事を頂くからプロジェクトでも常に下手に出ないといけない。
○ 対等なパートナーとして仕事を依頼して頂いてクライアントと楽しくコラボする。

プロフェッショナルとしての誇りを捨てる必要はありません。誇りの持てる仕事です。

× お客さんに言われた通りのものを作るだけで創造性を発揮する機会がない。
○ お客さんのためになる創造的なアイデアを提案して独創的なものを作ることができる。

ひとりよがりの「提案」ではなく、お客さんとのセッションを通じて一緒に企画していくことで、ある意味で「共犯関係」になって社内説得・予算獲得していきます。

× 受託開発なんて大した能力がなくてもできる小銭稼ぎ。
○ プロフェッショナリズムを追求すれば能力も報酬も青天井。

能力と経験に裏打ちされた「受託開発」において、開発チームは経営コンサルティングファーム並みにクライアントの事業戦略に関与します。結果的に人月200万円、300万円という並外れた報酬もありえるわけです。とはいえ、お金を目的にして道を踏み外したくないので、ガメツく稼ぐ気はありませんが。

× 受託開発で成果を上げても有名にはなれない。
○ 実績と広報によって有名になることもできる。

えっとぉ、中村勇吾さんって知りませんか?

ぼくはゼロベース株式会社で「受託開発」を楽しんでます。こういう実践を可能にする理論と経験については(すでに2年前の文章ですが)ゼロベース流アジャイルウェブ開発術2010年版にまとめたのでご参考に。

大企業との(あいだに代理店などを挟まない)直接取引で、一緒にイノベーティブな仕事をすることは、しばしば新興企業(スタートアップ)より多くの困難を伴います。しかし、乗りこえたときのインパクト(社会に与える影響)は巨大です。数人のチームで、数百万人の生活に影響することができるわけです。

だから、ぼくは「スタートアップ/ベンチャーの自社事業」に負けないくらい面白い「受託開発」をやっているという自負があります。

そもそも、なんで「スタートアップ/ベンチャーの自社事業」にこだわるんですか?

  • 自分のやりたいことをやるために? →「受託開発」でもできる(前述)
  • 「自分の事業」だから? →「受託開発」でもできる(前述)
  • 成功して有名になりたいから? →「受託開発」でもなれる(前述)

といった具合で、ほんとうにそれって「スタートアップ/ベンチャーの自社事業」である必要があるのか、考えてみてもいいと思うんです。「起業」にこだわってる人には。

そもそも「起業」(スタートアップ/ベンチャーの自社事業)か「受託開発」かなんていうのは手段でしかないのでは? ぼくも起業してゼロベース株式会社を作りましたが、「起業が目的」っていう考え方には違和感があります。

ぼくは自分のマニフェストを実現するために「受託開発」という手段をとることが多いですが、「自社事業」もやってます。どっちの手段も使いこなせばいいだけだと思うわけです。起業なんて単なる手段だから、変な「夢」とか持たないほうがいいんですよ。

「起業や自社事業ができないから、仕方なく受託開発をしてる」っていう人が世の中に多いのは知ってますが、ぼくはそうじゃないので。起業もしたし、自社事業もやれるけど、好きで「受託開発」してるわけです。小さな会社が自前主義でなんかやろうとするより、大企業とのコラボでレバレッジ利かせて社会的インパクトを最大化したほうがいいと考えてるわけです。

ともかく「受託開発は面白くない」という偏見を捨てる人が一人でも増えますように。

なお、ゼロベースでは人材(同志)を募集しています。デザイナー、エンジニア、ディレクターなど。会社員でありながらフリーランサーのように働ける組織ですし、そのままフリーランサーの業務委託契約もアリです。ぜひコンタクトしてきてください。

昔からよく言ってるんですが、IDEOと37signalsを10年ほど前から意識してきました。彼らのいいところを参考にしつつ、IDEOよりウェブに強く、37signalsがやらないクライアントワーク(受託開発)でイノベーティブな仕事をする、という組織としてゼロベース株式会社を経営しています。

「受託開発」はサイコーに面白い!!

次は『デザイナーとエンジニアを募集する率直な理由』もどうぞ。

(※以下はコメント(ツッコミ)への応答なので、ここまでの内容に違和感のない方は読まなくていいです)

【追記】誤解の無いように言っとくと、ぼくはベンチャーも大好きですよ。GMO Venture Partners(というベンチャーキャピタル的な会社)の「シンジケーション・パートナー」という謎の肩書きでベンチャー企業の戦略から製品開発まで手伝ってます。大企業からの「受託開発」とベンチャービジネスの両方の面白いところを知った上で、前者があまりにも不当に「面白くない」と評価されていることに憤慨してこのような文章を書きました。まる

【追記】「クライアントに企画を提案して予算貰うって、VCに事業をプレゼンして投資してもらうのと変わらないような。受託は案外起業に近いのか、はたまた...。」というコメントを頂いて気付かされたんですけど、ぼくは起業家として起業のつもりで「受託開発」してるから充実してるってことですね。なるほど。

【追記】「とはいえやっぱり受託には限界がある」ってコメントを頂きましたが、「起業の限界」もあるんですよ。ぼくは「受託のほうが起業より常に良い」って言ってませんから。「単なる手段なんだから、使い分けようよ」って言ってます。要するに「起業(自社事業)」と「受託」の二項対立構図を脱構築して優劣を相対化したうえで建設的な言論環境・実践環境を作り出す、ってのがぼくのプログラムなんです。

「受託嫌い」は「食わず嫌い」か「美味い受託を食ったことがない」かである。

もちろん「美味さを知ればみんな受託をやりたくなるはず」という意味じゃない(ぼくはそんなにバカじゃないよ)。ただ単に受託をやらないという選択をすればいい。なぜ「嫌う」のか。偏見、先入観の問題です。「面白い受託開発がある」という事実によって偏見・先入観を壊したいです。

【追記】「それを受託とは呼ばない」「定義の問題」といったコメントを頂きました、その通り「定義の問題」ですが、ぼくの意図は伝わっていないようです。

「起業」と「受託」の境界は曖昧だ、というのがぼくの意図です。「定義の問題」ですが、それは「何が受託で、何が受託で無いか」を問うことではありません。むしろ「何が受託で、何が受託で無いか」という定義の自明性に疑いの目を向けて頂くために、このような文章を書きました。

ですから、ぼくは「受託」の定義を広げようとしている(「本来」の意味を超えて「受託」という言葉を使っている)ように見えるでしょうけれど、それが目的なのではなくて、単なる手段に過ぎません。目的は、「受託」の定義を広げた結果として雲散霧消させることです。「受託」と「起業」の排他的定義自体を無効化したいわけです。

  • 「受託」「起業」の二分類にざっくり分けるのではなく、もっといろんな仕事の形態があるのを細かく分類して見ていきましょう。
  • そして、従来的な「受託」や「起業」の定義に囚われない自由なビジネスデザインをしませんか?

と言いたいわけです。圧縮して短く言えば、「起業」と「受託」の二項対立構図を脱構築して優劣を相対化したうえで建設的な言論環境・実践環境を作り出す、ということです。

ふたたび若干アカデミックな言い方をすると、青木昌彦著『コーポレーションの進化多様性』やトマス・マローン著『フューチャー・オブ・ワーク』などで示されているように、「企業の内外を分かつ境界線」は流動化(線引きが変わる)だけでなく希薄化(明確な線引きが難しくなる)しています。「起業」と「受託開発」の境界も流動化・希薄化しているし、したほうがいい、というのがぼくの意図です。

ですから、「定義の問題」であるという指摘はその通りなのですが、「それは受託じゃない」「いや受託だ」といった「定義」を問題にすること自体が不毛だと考えます。「定義の成立根拠や、定義を取り巻く言論環境・実践環境を(定義内容よりも)問題にしている」という意味での「定義の問題」なのですから。

そういう意図もあり、括弧付きで「受託開発」と書くことにしました。

【追記】ぼくが世の中の受託開発すべてについて言及してるというふうに読んだ人がいるようです。「すべての受託開発は面白い」と。驚愕です。どこをどう読めばそんな話になるのか。どう読もうと読者の勝手ですが、ぼくはそんな意図で書いてません。ぼくがやってる「受託開発」は面白い、と言っただけです。世の中にダメな受託開発プロジェクトが山ほどあるのは知ってますよ。というか、知らないはずがないのにねえ。

トラックバック(0)

トラックバックURL: http://zerobase.jp/mt/mt-tb.cgi/1140