SIer・システム開発会社はWebサービスを受託開発できるのか?

業務システムとWebサービスでは勝手が違う。SIer・システム開発会社にWebサービスの開発を委託すると落とし穴にはまる可能性が高い。

私は昔からソフトウェア・エンジニアリングに対する強い関心があるんですが→「デザイン」がソフトウェア開発を変革する(2008年01月) 今日はアジャイルとか要求開発とかに関する情報収集をしていて、気づいた点がありました。

「事業としてのWebサービス」の開発はSIerにとっては未知の領域であり、その理由は「マーケティング」の必要性だ、という点。→事業としてのWebサービスとは?(2008年02月)

SIer(ソフトウェア)と製造業の違い

たどりつけないが、予定。 - 銀髪の記憶

フロントローディングの誤解を解いて、ハードウェアの製造(平たく言うとトヨタ生産方式)ではなく、ハードウェアの開発(トヨタ製品開発システム)にこそソフトウェアの学ぶべきところが多いとことを主張する。

ソフトウェア開発におけるフロントローディングとは何だろう? - u_1rohのカタチ

製造業とか建築からの連想で、ウォーターフォールという開発モデルが出来上がったわけだけれど、どうもそれではうまく開発できないことが多いということでアジャイル開発手法が注目されてきたという経緯がある。アジャイルの発見とはすなわち、ソフトウェア開発を製造業とのアナロジーで捉えるのは危険である、というメッセージではなかったか。ここで再びフロントローディングというキーワードを製造業から引っ張ってくることは、ソフトウェア開発の現場を再び暗い闇の中に突き落としてしまうことにはならないか。

ソフトウェア開発業(SIer)が熟慮なしに製造業のやり方を取り入れる危険性を指摘されているのだと思います。それについては同意見です。ソフトウェアを作ることは、工業製品や建物を作るのとは本質的に違う部分が多々あります。

一方で、Webに携わる人間としては、次の視点も重要だと考えています。

そのシステムの「ユーザー」は誰か?

SIerでは当たり前すぎて意識されないと思いますが、システムの「ユーザー」は誰でしょう? 暗黙に「ユーザー企業」の従業員が想定されているのではないでしょうか? 「業務システム」を作ることがほとんどでしょうから。

ここで製造業の例をひいてみれば、「特定企業の従業員のみが利用するカスタムメイドの工業製品」なんてものが、あるんでしょうか?(トヨタ専用の椅子、とか、あるかもしれませんが(笑)

めったに、見かけませんよねえ。

Webサービスのユーザは?

一方、「Webサービス」を考えてみると、そのユーザは「不特定多数の人々」です。B2BでもB2Cでも「事前に誰が使ってくれるか分からない」のです。(ある程度の予想はできたとしても)

これはSIerが手がける企業情報システムの世界とは大違いです。

逆に、製造業にとても似ています。新しいデザインの商品を、大量生産で、発売してみて、はじめて誰に売れるか分かる(誰にも売れないかもしれない)。その点では、パッケージ・ソフトウェアにも似ている。なんとなく、Webサービスは業務システムよりはパッケージ・ソフトウェア(さらには工業製品)に似ている部分が多いんじゃないかと。

Web2.0の旗手として有名で、SaaSプロダクトを数多く展開する37signalsも、元々はシェアウェア作家です。→デザイナーがプロダクト事業を起こす方法 by Jason Fried (37signals) (2007年10月29日)

要するにソフトウェア開発といっても、MicrosoftがOfficeを開発するのと、NTTデータがユーザ企業の基幹システムを受託開発するのとでは、大違いという意味です。

何が違うかというと、「マーケティング」の必要性です。

※追記:なお、実務的には「Webサービス」と一括りにできず、「コミュニティ系(みんなで使う)」「ツール系(個人的に使う)」「ポータル系(調べたり)」といった大きな違いがあります。が、「マーケ重要」という点は一緒です。

要件定義?ハァ?な世界

人が集まってみて初めて「誰のためのシステムだったのか」が明らかになります。逆にいうと、人が使ってくれないと、分かりません。(そして1,000人のユーザも集めずに消えていくWebサービスも多い)また、ドラッカーも言うように「意図せざる成功」だってあります。

「Webサービス」におけるシステムは「製品(プロダクト)」なのです。Webサービスを「使ってもらう」のは、プロダクトを「売る」ということ。よって「マーケティング」が必要です。

ここを意識せずに、システム開発、ソフトウェア・エンジニアリング、SIerなどの知見を安易にWeb世界のシステム開発に持ちこもうとするのは危険じゃないでしょうか。Web業界でシステム開発に携わる人たち(エンジニアだけでなく)は、この点を意識したうえで、取り入れたほうがよいと思います。

Webサービスに「システム開発」の側面があるからといって、業務システムのように「ユーザに聞く」とか「要件定義」とか「要求開発」しようとする発想では、うまくいかない。そこで「プロダクトアウト」か「マーケットイン」か、といった二分論での議論も危険。どっちの面も必要に決まってる。

そういう仕事って何?「マーケティング」や「商品企画」ですよね? で、それってSIerには未知の領域なんだと思います。

仮にQCD(品質・コスト・納期)を守って作ることができたとしても、それが開発の「成功」というわけではありません。事業としてのWebサービスにおいては、まず「(選んで)使ってもらえないと意味が無い」し「事業としての目的(利益とか)を達成できなければ意味が無い」です。

2007-08-31 - 2008年のはぶにっき そんなに甘くない

もう10年くらい前から、SIerは提案能力が重要、みたいな話がずっとあってコンサルティング事業の強化とか言われてるけど、まーぶっちゃけ無理だと思うんですよ。曲がりなりにもコンサルティングファームにいた人間から見るとね、カルチャーが全然違うので見よう見まねでやってても根付かないと感じています。

Webサービスの受託開発会社

Webサービス開発を外部のシステム開発会社に委託しようと考える人は、「その会社にマーケティングが分かるか」をよく見極めたほうがいいです。が、実際にはそんな会社なかなかありません。また、一方で「マーケティングが分かっているコンサル」も実際にプロダクト開発できるわけではありませんよね。

というわけで、Webサービスの受託開発をやっている、できる会社というのは、実際のところ非常に限られてきます。

で、うちもなんですが(笑) この領域に「フォーカス」してます。

うちの特徴は、クライアント企業の「戦略パートナー」として、経営的な視点、新規事業計画書の作成段階からサポートする点です。といっても企画書を書くだけのコンサルではなく、モノを作るのが、ほかに例の無いサービスかなと→プロトタイピングによるフィジビリ(F/S)とは? (2008年02月01日)

この「プロトタイピングによるフィジビリ」という手法は、非ソフトウェア、非Webの商品企画では、そんなに特殊ではない(ふつう)と思います。デザイナ主導の商品企画では、モックやプロトタイプを活用しますよね。

ここで前半の話に戻りますが、

「Webサービス」は「プロダクト」であって、工業製品やパッケージ・ソフトウェアに近い。だから、そういう風に「商品企画≒マーケティング」しないといけないのでは?

なんてことを考えて、「プロトタイピングによるフィジビリ」を提唱・実践しています。

つづく

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ちなみにこれも面白い→minor tranquilizer » SIer、IT業界構造:一連の記事をツリーっぽく並べました

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