ちょっと待て、そもそも「ベンチャー」ってのはなぁ・・・(導入)

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ベンチャー起業家Jason Calacanisが「ワーカホリックでない奴をクビにしろ」と書けば、37signalsのDHH(David Heinemeier Hansson)が「ワーカホリックこそクビにしろ」と書き、ブログで議論の応酬がなさているようです。

私も「ベンチャー」と「ワーク・ライフ・バランス」については一家言あります。まずはシロクマ日報さんのまとめ・所感を引用してみます。

シロクマ日報 > ベンチャー企業では、家庭を犠牲にしなければいけないのか? : ITmedia オルタナティブ・ブログ

従って重要なのは、「私生活を犠牲にせよ」「いやするな」という一般論を唱えることではなく、それが会社と、個人の人生の両面でプラスになっているかどうかを考えることだと思います。ただ一般的に言って、ベンチャー企業では不安定な状況に置かれる可能性が高いのは事実ですから、「ベンチャー企業では」という前提の下では「仕事を優先してくれる人物を雇うべき」という主張の方が説得力を持つように感じますが。ただ常に社員に犠牲を強いるような会社は、早晩立ち行かなくなってしまうでしょうけどね。

同感です。その通りです。

一般論には意味が無い。

「ベンチャー」とは?

まず整理しておくと「ベンチャー」という言葉の認識が甘いことで議論が混乱する面があります。この記事では「狭義のベンチャー」について論じます。

「創業間も無い零細」や「中小企業」を本来の「ベンチャー」とごっちゃにして「ベンチャー」って呼ぶのは止めましょう。まずそこから始める。SMB(small & medium business)からVB(venture business)を明確に区別しましょう。

「狭義のベンチャー」の定義:ベンチャーマネーから創業資本を調達したことにより、会社設立時点から投資家への還元(おもに上場か事業売却)という出口(exit)が義務付けられた会社

(この時点で37signalsは狭義のベンチャーではない。一方でJason Calacanisはベンチャー起業家。だから議論がかみ合わないのです。)

ベンチャー・スキームは、exitの義務が生じる一方で、十分な資金を調達することにより「時間を買う」ことができます。(義務とはいっても、起業家だってEXITはしたい。自分がベンチャー起業するなら望ましい結末の順に上場>売却>清算>リビングデッド>倒産だな。人によって違うでしょうけど。というか上場は手段であって目的ではないけど、pre-IPO投資家への還元という意味ではひとつのゴール)

成長産業で勝負するベンチャーには適切なスキームです。では、成長産業におけるベンチャーの成功パターンは?

ベンチャーの成功パターン

産業の成長カーブに適切なタイミングで参入し、早期にシェア(市場占有率)1位を獲得し、市場の成熟にあわせて(成長中期から後期にかけて)利益を得る、というのが基本的な成功パターンです。(もちろんこれ以外の成功パターンもある)

製品開発フェーズ

いち早く製品を世に出すためには一気に開発費を投じなければならない。ちんたら「受託で稼ぎながら」とかやってたら機を逃します。

余談ですが、受託で日銭を稼ぎながら自社製品を開発しようとする自称ベンチャーの多くが結局は受託屋さんのままにとどまります。これは前述の「資金調達して時間を買う」と対になっています。ベンチャー事業をやりたかったら資本調達して時間を買うのが最初に検討されるべき選択肢だと思います。

いち早く製品を世に出すためには、資金が必要なのです。そして、その資金の供給者としてベンチャー資本市場があります。ベンチャーマネーはそういう狭義のベンチャー企業に投じられるべき資金です。

この観点において「ベンチャー」とは「創業間もない小規模企業」の意味ではまったくありません。その意味でSMBとVBを分けようと言ってます。(後述のようにワークスタイルなども違ってきます)

市場投入フェーズ

そして、早期にシェア1位を確保しようとすれば、利益度外視でも売ることが重要。利益が出ない(粗利益率が低い)のだから、売上は伸びていてもキャッシュフローはマイナスだし、下手したら(営業利益が)赤字。でも構わない。その市場が確実に伸びる(というのは起業家の仮説だが)のであれば、目先の営業利益よりシェアを重視すべきです。なぜか?

市場の成長カーブとPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)の観点です。市場の成長率が高いうちにシェア1位をとっておく。そのシェアを保ったまま市場が成熟し、成長率が鈍化してくれば、そこで利益が生まれる。

じつは「成長期」には競争が激しくキャッシュフローは悪化する、といった傾向もある。むしろ成熟・衰退フェーズのほうで利益が出たりする。その状態を「金のなる木」と称します→PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)

だから、市場の成長期にシェア1位を獲得することはけっこう重要で、その間は利益が出にくいからキャッシュフローはマイナスだったりする。それを覚悟で「シェア」の取り合い競争に挑まなければならない。

※すごい極端に書いたけど、実際にはキャッシュフローはプラスのほうがいいに決まっている。そのへんの舵取りも難しい。「いい赤字」「悪い赤字」「いい投資」「悪い投資」の見極め。

まとめ

  • 種まき:いち早く製品を市場に投入すること。(ただし、早すぎてはダメ。「適切なタイミング」で。タイミングがよければ一番手である必要も無い)
  • 水やり:市場の成長にあわせて販売を拡大し、シェア1位を確保すること。
  • 刈取り:そのまま市場の成熟、衰退にあわせて、利益を得る。

これが「成長産業におけるベンチャービジネスの典型的な成功パターン」です。

そして、種まきと水やりのフェーズでは商売自体から利益が生まれないから、資金調達が必要。そのためにベンチャー資本市場があり、ベンチャー・スキームでの資金調達(ファイナンス)手法が存在する。

長くなったので続きは次回へ。「ベンチャーは帰らない」件について。


appendix: ベンチャー経営におけるPPMについて

市場の成長曲線という「時間軸」をPPMの奥行き方向の軸(Z軸)とみなしてください。あるいは動画のイメージ。ベンチャー(=新規事業)は右上の問題児から始まる。左上の花形に移動できるか、右下の負け犬に落ち込むか。時間が経つと基本的に下に落ちていきます。(成長率が下がるので)誰かが「PPMはビジネスにおける重力の法則」と言いました。時間と共にあらゆる市場の成長率が下がること、それがPPM上では「下に落ちる」というあたかも重力のように表現されることから、じつに良い比喩だと思います。どんな放物線を描けるか、ですね。

追記:コメントにお返事「投資を元にハイリスクでハイリターンを狙うのがベンチャー/リスクを回避して仕事をするのはSMBという切り分けでいいのかな?」そうそう。→ベンチャービジネスとスモールビジネスの大きな違い:梅田望夫・英語で読むITトレンド - CNET JapanとかOn Off and Beyond: ベンチャーと中小企業の違いとかご参照ください。(5年前リアルタイムで読んでたけどまったく古びない議論だなあ)

※注意点:極端に書きましたがこれはベンチャー起業の一つのパターンにすぎません。最初は売上重視、利益度外視、といったやり方を少なくともクレイトン・クリステンセン『イノベーションへの解』では推奨していません。

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意識しないと、いつの間にか、そう「視野は“だんだん”狭くなる」 この“だんだん”ってところがミソで、自分では気付かない間に、いつの間にか狭くなってしまっている。定期的に自分に対してアテンションかけないと、気付いたらものすごく視野が狭くなっている。 東京に来て、業務範囲が一機に狭くなったのもあるけど、それ以上に忙殺される毎日に眩暈がしている。そんな中で休日ってすごく重要だって改めて思い知りました。 この土日は、一切仕事はしない、で、気ままにごろごろ過ごすと決めていたのですが、散歩するだけでも世界が違って見えた。ずっと、家と会社の往復だけの毎日が続いていたけど、あぁ、普通に、日常はすぐ近くにあったんだって気付いた。 光り輝く太陽も、ちょっと気付くのが遅れたけど、梅の花が咲いていたり、緑は力強く緑で、人々が笑いながら歩いてて。。。冷たくなってしまっていた自分の感情が一気に暖まった気がした。 最近、何度も反芻している言葉があります。 これが本番 「これはお前の人生のリハーサルじゃない。本番だぞ。」 〜中略〜 仕事もプライベートも本番なんだ、 ということを強く意識する今日この頃。 あぁ、そりゃそうだよね!なんて。でも、言われて初めて気付きました。当たり前すぎて、また、都合の良い言葉や、日々の中で失われがちな事だなぁと思いました。両方備えて、初めて俺の物語。 また、ベンチャー企業では、家庭を犠牲にしなければいけないのか? 常に社員に犠牲を強いるような会社は、早晩立ち行かなくなってしまうでしょうけどね。 別に、なんだか仕事一筋的考え方を否定するわけではないのですがwこれも、みんなそう思っているけど、なかなか口にする事が出来ない事をはっきりと書いてあるなぁと思いました。そもそも、当たり前の事だと思いますし。難しいけど、そのバランスが崩れてしまったら、人々が不幸になるだけ。 私は集団心理が大嫌いなのですが、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」的な考え方は、結果的に、会社も、人も不幸にするだけ。どう考えても「おかしいと思った事は、おかしいと言うべき」サラリーマンだから、従うしかない。という言葉が大好きな人もいるなぁって思うのですが、それは違うと思う。 「これよりも、こうした方がいいんじゃないですか?」ってちゃんと言った方が、会社の為にも、働く人のためにもなる。それは働き方だけじゃなくても、会社の戦略に対しても同じ事。 何がどうおかしくて、これをこうすればもっとよくなるんじゃないか。という事を、ちゃんとロジカルに話せる人が少ないのかもしれませんけどね。 っと、ちょっと長くなりそうで、話しもそれてきたのでこの辺で!!下記も最近深く読んだ記事です。 ちょっと待て、そもそも「ベンチャー」ってのはなぁ・・・(導入) ※悲観的なわけでもなく、嫌気がさしてるわけでもありません。深い意味もありませんのであしからず。 続きを読む

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このブログ記事について

このページは、ishibashiが2008年3月 9日 13:51に書いたブログ記事です。

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