戦略的コスト構造を武器に

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前回のつづき)

■戦略的コスト構造を武器に

マンパワーは、社外から調達できます。社員が手を動かす必要はない。マニュアル化しやすいルーチン・ワークに限られますが、そもそもシステム化するような業務はルーチン・ワークでしょう。

人的運用は社外調達(アウトソーシング)によって変動費化でき、柔軟なコスト構造の実現にもつながります。そのうえ、この円高ですから、海外へのアウトソーシング、つまりサービス輸入によって、円高の恩恵に浴するのも有力でしょう(例:Hoster-JPのSecure BPO)。海外アウトソーシングのほうがシステム化投資より安い場合だって十分に考えられます。

「とはいっても、【どこまで東京?】は、企業ではなく個人であって、お金がないから、こんなにローコストにできるんじゃないか」という反論が聞こえてきそうです。たしかに、そうでしょう。

では、逆に聞きますが、なぜ企業は同じように【お金のかからない方法】を取ることができないのでしょうか?

低コストであることは新規事業にとって大きな武器なのです。数名のビジネス論家の言葉を借りて説明します。

ジェフリー・ムーア氏は、ビジネスのフェーズ(ライフサイクル)によってコアとコンテキストを区別する重要性を説きました。例えば「投稿を審査していたずらを防ぐ仕組み」などは「お客さんが1ミリでも評価してくださる価値なのですか?」と問われたときに、自信を持って「お客さんが評価してくれる価値だ」と言えるでしょうか。そうなら投資すべきでしょうけれども、安心感がウリのサイトでもないかぎり、そういうのは「コンテキスト」であって、「コア」ではないでしょう。新規事業がお客様・ユーザに提供する本質的な価値ではないということですね。

こういうコンテキストへの投資は、ユーザのことを考えた結果よりも、運営会社のリスク回避、事なかれ主義から出てくる場合があります(※全部がそうではないにしても)。つまり「問題を事前に防止しておこう」という考え方です。それは誰のためか。お客様・ユーザのためであり、それが評価して頂けるならよいでしょう。しかし、責任を取りたくないから云々といった身内の論理ではないかと問わないといけません。こういう官僚主義や大企業病は新規事業の大敵です。コンテキストへの投資が必要なタイミングはやってきますが、それは先のことです。コンテキストへのシフトが早すぎれば、新規事業のダイナミクスを殺してしまう。

クレイトン・クリステンセン教授も『イノベーションへの解』や『明日は誰のものか』 で新規事業の立ち上げに金を節約することの重要性を論じています。既存市場のローエンドや新市場は、既存プレイヤーから無視されるため、破壊的イノベーションが橋頭堡を確保しやすい。「良い金と悪い金」の議論にあるように、どれだけ早く利益を達成するかが新規事業の命運を分ける。早期に利益を達成することと、低い価格で参入することを考慮すれば、コストは低ければ低いほどよい。(※急激な成長を狙って赤字でも積極投資する 、というリスキーな方針もあります。ダメではないが、私自身は新規事業そのものがハイリスクでハイリターンなのだから、実践においてはなるべくローリスクにしたほうがよいと考える場合が多いです)

キム教授&モボルニュ教授も『ブルー・オーシャン戦略』において低コストの利点を述べています。ブルー・オーシャン創造のマーケティングにおいては、まず顧客に提供する価値と(戦略的な)価格を定め、それを実現するためのコスト構造を模索すべき、と唱えます。これはコスト積み上げ型の価格設定(コストが価格の目標値を定める→できるだけ高く売ろう)とは逆であり、価格がコストの目標値を定める(できるだけ安く売ろう))ということです。その際には、徹底したローコスト・オペレーションが必要になりますが、なんでも削ればいいというものではありません。では、どこでメリ・ハリをつけるかというというのが「戦略キャンバス」というツールと「4つのアクション」によって市場の境界をひきなおすという方法です。それによって「差別化」と「低コスト」の両立を狙うのがバリュー・イノベーションです。(※差別化と低コストの両立が可能であると主張するのは、マイケル・ポーター教授の競争戦略論を踏襲しつつ発展させる試みといえそうです)

このように三通りのイノベーション戦略論を見てきましたが、いずれも低コストの優位性を語っています。

コンテキストにコストをかけるべき理由は、たくさん思いつくはずです。しかし、新規事業のルールは「できるだけコストをかけるな」です。既存事業と新規事業はルールがまったく違う。既存事業をうまくこなせる人も、新規事業でうまくやれるとは限らない。かえって経験が邪魔になる場合もある。ビジネスのルールが違うことを認識し、それまでの常識を捨てるべきなのです。

そのうえで、新規事業において低コストを実現すべき理由とは「そうする必要があるから」です。「お金がないから」ではないのです。お金が余っていても、低コストを実現すべき。たとえ大企業でも、新規事業においては、そうすべきなのです。

■不確実性と後知恵

さて、新規事業投資には「リスク」があると言いました。これは、正確には「リスク」というより「不確実性」だと思います。

つづく

※私が「新規事業」というときは、おもに「破壊的イノベーション」のほうです。持続的イノベーションならば、新規事業に最初から多額の投資をしていくのも妥当な戦略になりえます。それは基本的に資源を持つもの(つまり大企業や先行者)に有利なゲームで、私には関心ありません。私はベンチャーや後発参入者がいかに勝つかという戦略に関心があります。


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このページは、ishibashiが2009年2月 6日 16:03に書いたブログ記事です。

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