企業は全体主義であるが故に独裁者を必要とする

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家族主義経営は限定的な状況下でのみ有効です。

従業員を家族と思う企業がある反面 - 戦略のみそ zentaku blog

出光の経営の中身は語るべきエピソード満載なのですが、その中のひとつ、「全員馘首せず」の話は、いまの苦しい日本企業(の一部)にも考えて欲しいところです。

人々はインセンティブに反応する (People respond to incentives) という経済学の基本原則を無視して、企業の経済的成功は難しい。正のインセンティブ(ボーナスなど)だけでなく、負のインセンティブ、つまりペナルティも必要です。解雇が無ければモラル・ハザードが生じます。

やっぱりおかしいビッグスリー救済:日経ビジネスオンライン

いったん「大きな企業は倒産しそうになると政府が救済してくれる」という考えが生まれてしまうと、リスクに寛容になり、そうでなければ行わなかったような経営方針が採用されることとなり(いわゆるモラルハザードと呼ばれる現象です)、効率的な資源配分が阻害されてしまいます。

ペナルティのリスクが危機感を生みます。韓非子信賞必罰と。自分の首が一生安泰だと思っている従業員や経営者に危機感はない。危機感がなければ生き残れないと言ったのはインテル経営者アンドリュー・グローブ氏でした。

年月を経ても色あせないアンディ・グローブのIT産業経営論:梅田望夫・英語で読むITトレンド - CNET Japan

アンディ・グローブは、IT産業というのは常に大変化が自社を襲うものだということを前提に、そしてその変化というのはそれ自身何だかよくわからないもので、しかも何の前触れもなくひたひたと組織に忍び寄るものであると認識する。そしてだからこそ組織全体の神経を研ぎ澄ませて「変化の予兆」を感得できるようにならなければならない、と言っているのである。

そのためにもの凄い緊張感を組織全体に漲らせなければならない、という彼の思想は、Paranoid(病的なまでの心配性)たる彼自身の性格をきっちりと組織にインプリメントすることに他ならず、それ以外にはIT産業でサバイブする方法はないと、彼はこの本の第一章でまず主張するのである。

グローブ流経営術「変化を察知する予言者を社内に見つけろ」:梅田望夫・英語で読むITトレンド - CNET Japan

このカサンドラとは、ギリシャ神話でトロイ陥落を予言した女司祭で、凶事の予言者の意。アンディ・グローブは、「迫り来る変化に誰よりも早く気づき早い段階で声を大にして警告を発する」カサンドラを、組織内に持つことの重要性を説く。それは、組織内のカサンドラこそが「strategic inflection points」(戦略的転換点)を認識する最大の助けとなるから。日本企業のトップでこんなことを言っている人は誰もいない。そこがアンディ・グローブの Paranoid(病的なまでの心配性)たる所以なのである。

インテルは、半導体というやや外からは見えにくいプロフェッショナルの世界で、地道にこつこつと、シグナルとノイズをかぎわけ、日々「strategic inflection points」(戦略的転換点)の模索を続けているわけだ。

さて、企業と国家をアナロジーで論じることは示唆に富みます。企業を国家に置き換えてみれば、ほぼすべての企業が全体主義 (Totalitarianism)です。自分の収入は他人によって決められる。働く時間も他人によって決められる。休む日も事前に決まっている。目標も他人から与えられる。共産主義国の国民となんら変わりない。

会社を国家に置き換えれば全体主義なのです。自由で民主的な企業など一握りの例外に過ぎない。

我々の誰もが東側世界の崩壊を知っています。社会主義や共産主義は持続可能なシステムではない。変化に弱く、成熟すれば崩壊する。官僚の計画能力が限界に達するからです。

しかし、全体主義が有効に機能する場面もある。先に宇宙ロケットを飛ばしたのはソ連でした。明確な目的に向けて資源を結集するなら集産主義 (Collectivism)は強い。

同じ目的に向かって競争するとき、各自が好き勝手なことをすると、努力を一点に集中できず非効率です。国民的合意を形成するにしても、民主的な意見調整のプロセスに長い時間がかかる。全体主義国家では、独裁者が決めさえすれば、一瞬で方向転換できます。他の人々には、その決定に従わないという自由はないからです。

目的が明確な成長段階や、全員が命運を賭けて一斉に行動を起こすべき転換期には、全体主義の効率性(自由の無さ)が有利に働くこともあります。そこには優秀な官僚と独裁者が必要です。これが冒頭で述べた「家族主義経営は限定的な状況下でのみ有効」という意味です。

ハイエクとインターネット

もし全知全能の計画当局が永遠の未来を合理的に予想し、世界を正しく導くことができるとすれば、自由は必要ない。この仮定は荒唐無稽にみえるかもしれないが、現代の「合理的期待理論」と呼ばれるマクロ経済学では、明示的にそう仮定するのである。この学派のリーダーであるトマス・サージェントは、あるインタビューで「典型的な合理的期待モデルは、一種の共産主義です。このモデルでは、すべての人々は計量経済学者であり、神と同じモデルを共有しているのです」と語っている。

もし「一人も解雇しない」という家族主義で生きていくつもりならば、指導者は戦略転換点において全体主義における独裁者のような指導力を発揮しなければならない。これは『インテル戦略転換』にグローブ氏が自ら書いていることです。つねに病的な強迫観念にとらわれて危機感をみなぎらせた指導者が、ひとたび戦略を決心したならば、まるでナポレオンのように自信にあふれた姿で軍隊を率いて進軍しなければならない。指導者は迷いを見せてはならない。全体主義の指導者は躁鬱病や多重人格のように生きなければならない。実際にそうである場合も少なくないでしょう。

環境変化・戦略転換点を乗り越えて長期的に持続可能な家族主義経営とは、固い絆で結びついた同朋と官僚と独裁者で構成される軍隊的経営の別名なのです。

なお、私は経営者としてここで述べたようなマッチョなリーダーになりたいとは思っていません。全体主義とは異なる自由で民主的な企業を目指しています。我々はまだ群盲象を撫でる段階にいますが、その手探りの一端はゲイリー・ハメル著『経営の未来』やトマス・マローン著『フューチャー・オブ・ワーク』に見ることができます。私自身も「自由主義にもとづく企業のかたち」を模索する一人です。

私は、全体主義の独裁者として自分自身が何をすべきか知っているつもりですが、その仕事が楽しいとは思えません。私は独裁者を必要としない自由な個人のネットワークを作りたい。つまり、全体主義ではない、新しい企業のかたちを模索したい。

ハイエクとインターネット

自由の意味は、無知な人々が最大の選択肢をもち、いろいろな可能性を試すことができることにある。このようにオプションを広げることによって効率が高まることが多いが、それは目的ではない(社会に目的なんかありえない)。こうした試行錯誤による進化の結果、生き残るのは、環境に適応した個体であって、絶対的な基準でみると「最適」な個体とは限らない。

今回は以上で終わりです。堅苦しい話にお付き合いいただき、ありがとうございます。お口直しに「一般人向けに翻訳された経済学基本原則3分講座(英語)」をどうぞ。「人々はインセンティブに反応する」(People respond to incentives) といった経済学の言葉を、もっと分かりやすく説明してくれます。

YouTube - Principles of economics, translated

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石橋さま

はじめまして、zentakuです。拙ブログの引用、ありがとうございます。
ちょっと、私にはむずかしかったのですが、とても考えさせられました。

石橋さんの指摘の意図からずれているかもしれませんが、私個人の考えとしては、負のインセンティブはいきなり解雇にいかずとも減給やほかの方法を
とることを考えたいと思っています。

あと負のインセンティブにモラールの維持を期待するよりも
前向きなインセンティブが危機感を高め士気を高めるような
仕組みも考えたいところです。

答えは全く見つかっておりませんが。ぬるい私でスミマセン(笑)

出光の家族主義についてはブログの記事で補足する予定ですので、
またお時間ある時にお越しいただければ幸いです!

文意、読み取れていなかったらスミマセン。その時はシカトしてください。

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このブログ記事について

このページは、ishibashiが2009年2月13日 16:36に書いたブログ記事です。

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