戦略的コスト構造を武器に

極限までローコストで、新規事業をスモール・スタートする方法についての考察 (6):ベンチャーの強みは「お金がないこと」

目次

  1. Webビジネス新規事業への賢い「アジャイル」投資術
  2. 新規事業投資、どこまで削れるか
  3. 新規事業のIT投資に、より多くの選択肢を残す
  4. 新規事業のリスクとコスト構造
  5. システム力に勝る「人間力」(手運用)
  6. 戦略的コスト構造を武器に
  7. 新規事業の不確実性

戦略的コスト構造を武器に

マンパワーは、社外から調達できます。社員が手を動かす必要はない。マニュアル化しやすいルーチン・ワークに限られますが、そもそもシステム化するような業務はルーチン・ワークでしょう。

人的運用は社外調達(アウトソーシング)によって変動費化でき、柔軟なコスト構造の実現にもつながります。そのうえ、この円高ですから、海外へのアウトソーシング、つまりサービス輸入によって、円高の恩恵に浴するのも有力でしょう(例:Hoster-JPのSecure BPO)。海外アウトソーシングのほうがシステム化投資より安い場合だって十分に考えられます。

「とはいっても、【どこまで東京?】は、企業ではなく個人であって、お金がないから、こんなにローコストにできるんじゃないか」という反論が聞こえてきそうです。たしかに、そうでしょう。

では、逆に聞きますが、なぜ企業は同じように【お金のかからない方法】を取ることができないのでしょうか?

低コストであることは競争上の大きな武器です。ベンチャー企業は「お金がないから工夫して、低コスト体質を実現する」とも言われます。ベンチャーの強みは「お金がないこと」にある、と言える面もある。

数名のビジネス論家の言葉を借りて補足します。

ジェフリー・ムーア氏は、ビジネスのフェーズ(ライフサイクル)によってコアとコンテキストを区別する重要性を説きました。例えば「投稿を審査していたずらを防ぐ仕組み」などは「お客さんが1ミリでも評価してくださる価値なのですか?」と問われたときに、自信を持って「お客さんが評価してくれる価値だ」と言えるでしょうか。そうなら投資すべきでしょうけれども、安心感がウリのサイトでもないかぎり、そういうのは「コンテキスト」であって、「コア」ではないでしょう。新規事業がお客様・ユーザに提供する本質的な価値ではないということですね。

こういうコンテキストへの投資は、ユーザのことを考えた結果よりも、運営会社のリスク回避(例えば「自社の法的リスクを減らすため」)、事なかれ主義から出てくる場合があります(※全部がそうではないにしても)。つまり「問題を事前に防止しておこう」という考え方です。それは誰のためか。お客様・ユーザのためであり、それが評価して頂けるならよいでしょう。しかし、責任を取りたくないから云々といった身内の論理ではないかと問わないといけません。こういう官僚主義や大企業病は新規事業の大敵です。コンテキストへの投資が必要なタイミングはやってきますが、それは先のことです。コンテキストへのシフトが早すぎれば、新規事業のダイナミズムを殺してしまう。

そもそも、「ユーザーに悪さをされたら困るので投稿審査機能は初期開発に必須」だという前提を見直せば、「そういう悪さをしないモニターだけ選んでクローズド・テストをすること」が解決策になります。フィジビリティ・スタディでビジネスの「コア」を仮説検証するならば、こういうやり方でいいのではないかと。

クレイトン・クリステンセン教授も『イノベーションへの解』や『明日は誰のものか』 で新規事業の立ち上げに金を節約することの重要性を論じています。既存市場のローエンドや新市場は、既存プレイヤーから無視されるため、破壊的イノベーションが橋頭堡を確保しやすい。「良い金と悪い金」の議論にあるように、どれだけ早く利益を達成するかが新規事業の命運を分ける。早期に利益を達成することと、低い価格で参入することを考慮すれば、コストは低ければ低いほどよい。(※もちろん一方では急激な成長を狙って赤字でも積極投資する というリスキーな方針もありえます。ダメではありませんが、私自身は新規事業そのものがハイリスクでハイリターンなのだから、実践においてはなるべくローリスクにしたほうがよいと考える場合が多いです)

キム教授&モボルニュ教授も『ブルー・オーシャン戦略』において低コストの利点を述べています。ブルー・オーシャン創造のマーケティングにおいては、まず顧客に提供する価値と(戦略的な)価格を定め、それを実現するためのコスト構造を模索すべき、と唱えます。これはコスト積み上げ型の価格設定(コストが価格の目標値を定める→できるだけ高く売ろう)とは逆であり、価格がコストの目標値を定める(できるだけ安く売ろう))ということです。その際には、徹底したローコスト・オペレーションが必要になりますが、なんでも削ればいいというものではありません。では、どこでメリ・ハリをつけるかというというのが「戦略キャンバス」というツールと「4つのアクション」によって市場の境界をひきなおすという方法です。それによって「差別化」と「低コスト」の両立を狙うのがバリュー・イノベーションです。

ここで紹介した三通りのイノベーション戦略論は、いずれも低コストの優位性を説いています。

コンテキストにコストをかけるべき理由は、たくさん思いつくはずです。しかし、新規事業のルールは「できるだけコストをかけるな」です。既存事業と新規事業はルールがまったく違う。既存事業をうまくこなせる人も、新規事業でうまくやれるとは限らない。かえって経験が邪魔になる場合もある。ビジネスのルールが違うことを認識し、それまでの常識を捨てるべきなのです。

そのうえで、新規事業において低コストを実現すべき理由とは「そうする必要があるから」です。「お金がないから」ではないのです。お金が余っていても、低コストを実現すべき。たとえ大企業でも、新規事業においては低コストを追求したほうがいいのではないかと。

つづく

※私が「新規事業」というときは、おもに「破壊的イノベーション」のほうです。持続的イノベーションならば、新規事業に最初から多額の投資をしていくのも妥当な戦略になりえます。それは基本的に資源を持つもの(つまり大企業や先行者)に有利なゲームで、私には関心ありません。私はベンチャーや後発参入者がいかに勝つかという戦略に関心があります。

〔註:2011年現在、違う考え方です。大企業から請け負う仕事も楽しく取り組んでいます。ゼロベースという小さな会社の能力を、大企業の資源によってレバレッジを効かせたうえで、社会貢献することができるからです。大企業に機会を与えて頂き、ともにイノベーションに取り組むという仕事が、いまはとても楽しいです。〕


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