雑誌/互恵的利他主義/自生的秩序の意図的設計

会社経費での雑誌購読をやめました。互恵的利他主義ができないかなと。現実社会においては「おすそわけ」「子供を預かる」などの互恵的利他主義が根付いた地域社会に暮らしたい、という人も多いでしょう。そういう環境をつくりたいのです。個人が自腹で雑誌を買って、回し読みをしている状態が理想です。学校の教室や部室における漫画雑誌のように、おおらかな共有、所有権放棄による公共財化。パブリック・ドメイン。

■雑誌が共有されやすい理由

「雑誌」は無形の情報財に近い側面を持ちます。使用しても価値が劣化しないのが特徴です。たまたま紙媒体に印刷されて物質財化されてるだけです。本質的な価値は内容(コンテンツ)にあります。

自分が買って読み終わった時点で、自分は元を取れます。そして、自分にとってはゴミ同然の物質になります。しかし、他人にとっては依然として価値がある。だから、ゴミ箱に捨てるかわりに放置する。「ただ捨てるのはもったいないから共有しよう」という意識がはたらく。

■共有のゲーム理論

共有すれば誰も損をせずに、全員が得をするのだから、功利主義的な観点からは、どんどん共有した方がいい。しかし、それを阻むものがある。そうでなければ、すでに共有している。なにが障害になっているかは「行動経済学(非合理な懲罰感情)」「繰り返し型の囚人のジレンマ(しっぺ返し戦略)」「情報の非対称性(フリーライダーが特定できない)」といった観点で分析できそうです。

個人の思惑:
・自分だけ供託するのは嫌だ。みんな供託するなら自分も。(しっぺ返し)
・フリーライダーがいたら嫌だ。(懲罰感情)
・誰がフリーライダーかは分からない。(逆選択)

これでは、共有が成立したとしても、微妙なバランスの上に成り立っているに過ぎない。もっとロバストにできないか。例えば、誰が供託したか分かる仕組みにすれば、誰がフリーライダーかも分かる。フリーライダーを後ろめたくすることで解決するかもしれない。

しかし、できればルールを作りたくない。互助会制度による解決は簡単ですが、互助会を「利他主義」と呼ぶのには違和感がある。貨幣を通じた売買が、物々交換になっただけです。あまり面白くはない。

■自生的秩序の意図的設計

なぜ互助会ではなく互恵的利他主義という形にこだわるか。それは私の興味です。私はハイエクの唱えた「自生的秩序」として互恵的利他主義の規範が形成される条件と過程に関心を持っています。直接的にルールを作るよりも非常に回りくどいのですが、これが解明できれば、応用の可能性がある。

例えば、Lang-8という相互添削型語学学習サイトや、リグレトという相互なぐさめサイトの成立条件に興味があります。こういったウェブ・コミュニティの設計に(形容矛盾に近いですが)「自生的秩序の意図的設計」の知見が活かせるはずです。

あるいは、子供服やバギーには「おさがり」という贈与文化があります。飲食店舗の「居抜き」も「おさがり」に近い。こういったことを経済学で解明したうえで、促進するビジネスのチャンスがあるかもしれない。

余談ですが、もっとルールを作っていく方向性ならば、法と経済学の知見を活かすことになる。その対象は、社内ならルール作り、社外ならビジネス・モデルです。

■お知らせ

こういう試みに理論的裏付けや助言をくれるかかりつけの「経済医」が欲しいのです。いまそういう職業は無いと思うので、経済学の大学院生か大学教授にお願いしたいと思います。

■寄付

「互恵的」でなくても成立するのが「寄付」です。何が寄付のインセンティブなのか。資産家が母校に碑や木を贈るのは、匿名でない場合が多い。自分の名を関した○○記念ホールといったケースもある。あれが寄付行為のインセンティブでしょうか。

もちろん、妬みやすい集団と、称賛する集団では、後者のほうがインセンティブ(=満足感)が大きいでしょう。より大きな満足が得られるなら、より大きな額を寄付するはずです。これは市場での取引に近い。寄付と水商売には類似点がある。ドンペリを入れるかどうかは、接客の良し悪しと、それによる今後の接客水準の期待値による。一方で、寄付を受けた人たちが、手紙や写真で感謝の意を表すことがある。これは水商売に近い。(寄付する人や、それを受ける人を貶める意図は、ありません)

寄付のインセンティブは「文化」や「価値観」から生まれるのではないか。「共有された価値観(Shared value)」とは「マッキンゼーの7S」で最初に位置づけられる "S" です。互恵的利他主義を善とする価値観が集団にあると、そこから全員が利益を得ることができるのかもしれない。「では、どうすれば、そのような価値観を共有できるのか」という問題設定をしたうえで、解決策を見つけたい。

■ポジティブ・フィードバック

互恵的利他主義が維持・強化される条件は無いか。ネットワーク外部性のようなポジティブ・フィードバックはあるのか。もしその成立条件が見つかれば、ビジネスに活かせるかもしれない。

■進化倫理学

互恵的利他主義が成立する条件を掘り下げるために、進化倫理学にも関心があります。晩年のF.ハイエクは、自由な社会の実現を妨げるのは人類の非合理的な部族感情にあるかもしれない、と考えていたようです。おそらく、報復感情は進化の過程で有利に働いたはずですが、それを乗り越えて自由な社会を実現するという挑戦は、21世紀人類の役目でしょう。

致命的な思いあがり - 池田信夫 blog

ハイエクは一貫して合理主義を批判してきたが、部族感情を否定して法の支配を説く点では合理主義者だった。ところが最晩年の本書では、無神論者の彼が「コミュニティを存続させている道徳や価値の人格化」としての宗教の価値を認め、こうした精神的統合が可能かどうかに「われわれの文明の生き残りがかかっているのかもしれない」と結ぶ。しかし彼が大きく貢献した部族感情を破壊するカタラクシー(交換社会)への進化は、逆転しないだろう。その意味では、われわれは----好むと好まざるとにかかわらず----ハイエクの時代に生きているのである。

道徳性の進化論

互恵的利他主義(注4)は、知的に発達し、高度に統合された社会をもつ種で進化した。ヒトの場合には互恵の時間的間隔が長いので、ずるをして他人をだますことが起こり得る。そのため罪悪感、正義心、道徳的攻撃性、感謝、共感などの感情は、この互恵的利他主義を実行するために要求されるようになった(Crawford, 1999, p. 13)。つぎに具体的例を見てみよう。

今、アシュレイはたくさん資源をもっており、ジャスティンは困っているとしよう。さて、もしもアシュレイがジャスティンを助けてあげるときの損失が小さく、ジャスティンが受ける恩恵が大きく、状況が逆転したときにジャスティンがアシュレイに恩返しをするならば、このような互恵的利他行動を通じて、両者がともに繁殖成功度を上げることができる。生涯を通じて互恵的利他行動、または「公正な」行動をとる個体は、実際に生存率が高く、先に述べたような無差別的な利他者とは異なり、生存率が高く、その遺伝子を将来の世代に受け継がせる確率も高くなるだろう。(ジョンストン, 2001, pp .128-129)

しかし、もらうだけもらってお返しをしないのも、そういう裏切り者にとっては適応的な戦略である。互恵的利他行動が双方にとって生き残れるようなメカニズムであるためには、それを注意深くモニターしなければならない。なぜなら、それは両者にとって危険に満ちているからだ。罪の意識(恩恵に対してお返しをし損なったとき)や怒り(お返しが得られなかったとき)などの感情は、そのようなやり取りをモニターしていると思われる有力な候補である。このような感情により、個体がそのような社会的交渉に実際にかかわっているときの潜在的な繁殖成功度の大きさを実際にその結果が現れてくるより前に予測することができる。(ジョンストン, 2001, p. 129)

互恵的利他主義 - Wikipedia

リチャード・アリグザンダーやロバート・アクセルロッドはゲーム理論を導入し、次のような場合に互恵的な利他行動が進化することが分かっている。

*不正や裏切りを感知し、それを行ったものに罰が与えられたり、利他行動の対象から除外される。
*裏切り者へ協力したり罰を与えない者にも罰が与えられる

これらは人間の心理や社会の構造を進化的に分析する際にも重要なファクターとなっている。


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