新規事業のIT投資に、より多くの選択肢を残す

極限までローコストで、新規事業をスモール・スタートする方法についての考察 (3):この世でいちばん、要件変更に対して柔軟なシステムは何でしょうか?

目次

  1. Webビジネス新規事業への賢い「アジャイル」投資術
  2. 新規事業投資、どこまで削れるか
  3. 新規事業のIT投資に、より多くの選択肢を残す
  4. 新規事業のリスクとコスト構造
  5. システム力に勝る「人間力」(手運用)
  6. 戦略的コスト構造を武器に
  7. 新規事業の不確実性

より多くの選択肢を残す

こういう提案に対して「個人サイトじゃないんだし、そんな安っぽいシステムじゃダメだろう」という方がいらっしゃるかもしれません。

では、逆に尋ねます。何が不足でしょうか?

このやり方でも、当初に設定したCSF, KGI, KPIの検証ができます。実際にビジネスの成否を占う上で、小規模な実験としては、これで十分だ、という考え方が本稿の主旨です。極端に小規模ですが、非現実的というほどではありません。

また、「一度に500万円使う」のと「まず50万円使って、結果を見てから、追加で450万円を使う」のは、後者のほうが合理的です。「同じプロジェクトに結局500万円を投じるなら一緒じゃないか」というのは、リスクや不確実性への洞察が足りないだろうと思います。もっと現実の不確実性に対して謙虚になるべきではないかと。「失敗しても50万円で済む」という選択肢(リアル・オプション)を得られることは大きい。

ポイントは「失敗の可能性を不可避のものと受け入れ、意志決定に加味すること」です。

「絶対に成功する法則など無い」ことや、「当初の意図通りに成功することも稀である」ことについては、同意頂けるかと思います。つねに「予期せぬ失敗」や「予期せぬ成功」と対峙し、それが何を意味するのかという本質を問い続け、臨機応変に軌道修正する必要があります。ドラッカーが『イノベーションと起業家精神』で述べたように。

また、絶え間ない事業の軌道修正において、ITシステムが足かせになってはいけません。事業の成功が目的であり、ITシステムは道具に過ぎない。しかし、ソフトウェアという言葉と裏腹に、いちど作ってしまったシステムはガチガチに固いもので、柔軟に変更できません。工期と費用が発生します。トップが決めた方針転換を、その日のうちに反映することはできません。

だからこそITガバナンス的にも、柔軟性を保てるSOAが有利だと思います。トータルコストで見れば、垂直統合(モノリシック・一枚岩)のアーキテクチャのほうが、ROIは高いかもしれません。しかし、それは確定論的世界観では正しくとも、現実の不確実性の前では、あまりに無防備な考え方です。多額の投資、資産、負債を、早期に固定化すべきではない、と考えます。

ひとつクイズを。この世でいちばん、要件変更に対して柔軟なシステムは何でしょうか? それは「未だ実現されていないシステム」です。あらゆる要件変更に対して柔軟です。

このことから、何が起こるか分からない(新規事業という)事業環境におけるITガバナンスの第一原則は「必要になるまで作らない」ことだといえます。ありもの(既製品)のパッケージやSaaS/ASPを活用すべし、という方針です。それらにAPIが備わっていれば、SOAの考え方で拡張可能です。部品を少しずつ入れ替えて拡張していける。結果として一気に500万円投じたとの同じような構成に発展させることも可能。ただ、途中で変更する選択肢(リアル・オプション)が生まれるのが違いですね(前述のように)。

※喩え:SOAの理想は自転車 | ZEROFACES

XP (Extreme Programming) というアジャイル開発方法論においては YAGNI 原則という考え方があります。「そんなもの必要にならない (YAGNI: You ain't gonna need it)」というマントラ(呪文)を唱えて、要件追加の誘惑に負けないように自戒しろ、という意味です。もしあなたが 「いずれ必要」という誘惑に負けそうなときは "YAGNI" (You Ain't Gonna Need It!) というマントラを唱えてください。

You Aren't Going to Need It(今必要なことだけ行う)。先の事を考えて、前払い的に機能を増やし、実装を複雑化させる事は避ける。むしろ無駄な機能があれば削りとり、今必要な機能だけのシンプルな実装に留めておく。このことで後のイレギュラーな変更に対応しやすいようにする。

エクストリーム・プログラミング - Wikipedia

私がクライアントの新規事業企画会議に参加したときには、「IT投資を遅らせるべき理由」「いかにIT投資をせずに、あるいは遅らせて、事業を立ち上げるべきか」を説得することが、けっこうあります。

※こういうのは、ふつう、ベンダーやプロダクション側からは、言いません。発注する気のあるお客さんの財布の口を、わざわざ自分から縛ることはないので。こういう利害相反を極力無くしたサービスとして「セカンド・オピニオン」もやっています。

※また、実際にシステムを作って小規模な試行錯誤をするための「プロトタイピング」というサービスを提供しています。受託システム開発、Web制作に似ていますが、仮説検証の方法論で企画するところが異なります。これも「必要ないものは後回し」で要件を極限まで絞って開発する点で、本稿の考え方をシステム開発に実践したものです。

つづく

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