VCの機能不全−−−使い切れないほどのカネを持ち、シード・マネーを提供せず、投資に値する起業家がいないと嘆く−−−

ベンチャー・キャピタルの資金はダブついているのに、投資機会が少ない。つまり、起業家が不足しています。私が考える致命的な原因は、シード・マネー(元手となる資金)の不足です。カネが余っているのに、必要なところに融通されない。これは金融の未熟、言い換えればフロンティアでしょう。

シード・マネー不足と起業家のリスク

VCはシード・マネーの提供者ではない。シード・マネーを、起業家本人や親類縁故の資金に頼るようでは、起業家にとってのリスクが大きすぎます。ふつうの感覚なら、50万円でも大金じゃないですか。どうやって1,000万円も集めるのか。あわよくば1,000万円を集めても、すでに「絶対に失敗できない」状況になってしまう。

VCの投資資金が増えたところで、関係ない。起業家のリスクは「自分がリスクを負ったシード・マネーを失うこと(ついでに不足分の融資に対する個人連帯保証という債務)」にあるのですから。これでは起業しようとする人は少ない。

シード・マネー不足とベンチャーの泥沼受託化

私は「新規事業投資、どこまで削れるか」というアイデアや、50万円からのプロトタイプ開発を提供できます。しかし、商売にはランニング・コストもかかる。とくに人件費。やはり500〜1,000万円の創業資金は必要でしょう。

そういう状況下で、「仕方なく」、受託で稼ぐことにする、というお決まりのパターンがあります。「起業家がアマチュアだから」で片付けるのは酷です。シード・マネーが非常に不足しているのですから。

受託で食いつなぎながら、プロトタイプを開発し、コンセプトを証明(proof of concept)して、資金調達する。これは大変です。受託だけでも大変です。両方同時にやるのは、とてつもなく大変です。

こうして、ベンチャーのつもりで起業したのに、受託で食いつなぐだけの会社が出来上がる。

※創業準備中で困っているベンチャーの方へ:ご相談に応じます。取り返しの付かない段階で相談されるより、早い段階のほうが解決の可能性が高い。

※VCの方へ:「まだ投資すべき段階でない」と思った会社を紹介してください。上述のように、無駄金を使わずにコンセプトを証明するための支援をします。将来「投資に値する事業」になることを単に祈るより、積極的に関与して、成功確率を高める支援をするほうがよいでしょう。放っておくと、ベンダーに騙されて、とんでもない無駄金を使ったりしますよ。

シード・マネー不足と資本市場

個人のエンジェル投資家は、過去の起業家が成功した結果であって、いま増やそうと思っても増やせるものではない。シード・マネー提供者としてのエンジェルを増やすことは、解決策になり得ない。

VCが顧客(起業家)視点でマーケティングするなら、ここに無消費(クリステンセン)、ブルー・オーシャン(キム&モボルニュ)を見いだすことができるはず。すでに起業した人ではなく、まだ起業していない人の市場です。そして、シード・マネー提供の破壊的イノベーションが可能であることに同意するでしょう。

シード・マネー提供のイノベーション

「そもそも、必要なのはシード・マネーなのか?」

こういうゼロベース思考で問題を考えてみると、違う解決策が出てきます。例えばEIR。コンセプトが証明できるまで、資金を提供する代わりに、雇用する。 ※Speed Feed > EIR (Entrepreneur in Residence = 客員起業制度)という制度について

私もミニマム/アジャイルなEIR制度を提供しています(ベンチャー起業ごっこ)。週末起業の感覚で、いまの会社を辞めずに、新規事業の準備ができる。つまり、給料はほとんど出ませんが、いまの職場を辞める必要もなく、EIR(VCへの転職)というリスクすら犯す必要がない。ネットビジネスの経験豊富な人材にとって、ローリスクな起業手段になると思います。もちろん「カネと時間をかけずにコンセプトを証明するノウハウ」も提供しますし、事業企画について私と長時間の議論をして頂きます。

EIRが唯一の解ではないと思いますが、VCはイノベーションに取り組んだ方がよいでしょう。「投資に値する起業家がいない」と嘆いていても、何も変わらない。

すべてのVCを見たわけではありませんが、イノベーションに取り組んでいるVCがあります。Y Combinatorの試みは注目すべき。GMOベンチャーパートナーズ(ブログビジネスファンド)も熱心に取り組んでいます。

追記:・・・と書いていたらウノウを退職した尾藤さんがEIRで起業準備中とのニュースが。応援します。

大変偉そうな内容で恐縮ですが、ベンチャー金融に対する期待の現れとしてご笑覧いただければ幸いです。これだけ関心があるくらいで、私はベンチャー投資が好きです。もっと多くの素晴らしいベンチャーを生み出す役割はVCが担うべきだ、という思いから、筆が走ってしまいました。ご容赦いただければ幸いです。

追記:2009/06/01

投資家側の意見として「創業者がまったくお金を出さないというのはどうも」「ある程度はリスクをとってほしい」というのも。そこで、起業家としてはシードマネーの出し手(エンジェル投資家など)に対して投資と融資をセットでお願いしてみるとか。例えば1,000万円のうち200万円を融資にしてもらって、それを丸ごと「自分の金として」出資する。それで8:2にしてもらう。その200万は融資だから会社が失敗したら自分で返す。手元に200万円が無くても200万円を自分の会社に出資する方法の一例として。

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ベンチャービジネスとスモールビジネスの大きな違い:梅田望夫・英語で読むITトレンド - CNET Japan

日本の人と話をすると、AmazonやeBay的な急成長メガベンチャーの世界よりも、職人的でコツコツしたCraigslist的なスモールビジネスの世界に共感する人が多い。たしかにスモールビジネスは素晴らしいと思う。僕も自分でやっているくらいだから、スモールビジネスが大好きである。事業がスモールビジネスであり続け、exitもせず、成長も希求しないこと自身に、何ら問題はない。

唯一の問題は、スモールビジネス・オーナーが、自らをスモールビジネス・オーナーと自覚せずに、ベンチャー経営者だと勘違いして、ベンチャーの流儀で「夢」などを語って、人やカネを集めることだ。そして、当然の約束としてexitを期待した人から見て「リビング・デッド(生ける屍)」になっても、知らん顔をすることである。それじゃあ、間違ってカネを出した人と、間違って就職してしまった人が気の毒だ。そこを自戒しさえすれば、スモールビジネス万歳、なのである。

シード・マネー(Seed Money):RBB TODAY (ブロードバンド辞典)

投資家が企業創業者のアイデアに対して投資する当座の小規模な資金。創業者は自分の事業のアイデアをビジネス・プランにまとめて投資家(ベンチャー・キャピタル)に提示し、賛同してくれる投資家を探しますが、通常は賛同してくれる投資家が最初にこのシード・マネーを投資し、その可能性を見極めようとします。

創業者は、この資金でそのアイデアを証明するもの(proof of concept)を試作したりして、アイデアが市場でどう評価されるのか確めることが必要です。

第7回 起業家の隠された動機とリスク:コラム(終了) - CNET Japan

もし十分な調査の上にきちんとしたビジネスプランを描き、自己資金に加え投資家を説得してその立ち上げに必要な資金が調達できたなら、挑戦権だけは得たと考えてください。あとは勇気をもってやるかどうかの選択になります。それはとれるリスクの範囲だと思います。金銭でいえば、自分のポケットからだした資本金がリスクの範囲です。

第16回 シードマネーのさまざまなありかた:コラム(終了) - CNET Japan

VCはシードマネーの出し手ではありません。シードマネーを利用して創業し、しばらくして目鼻がつき、会社というハコができてから、はじめてVCの対象になりうるのです。では、シードマネーはいったいどこからどう調達すればよいのでしょうか?

...

このうち最初の3点、つまり

  • 自分自身および創業メンバーの貯蓄を寄せ集める
  • 親や親戚などから借りて、自分が出資
  • 友人・知人に投資してもらう、あるいは借りて、自分が出資

については、解説不要でしょう。いまも昔も一番の王道です。まずはこれを追求すべきです。この3点だけでも、創業メンバーが3人もいれば、なんとか1000万円は集まるはずです。

チーフ・テクノロジ・オフィサ(CTO)ってチーフ・エンジニアと違うの? (ZEROBASE BLOG)

社長がいきなり数千万のシステムをSIerに発注する。あるいは、いきなり10人のエンジニアを雇って半年間も開発して資金を食いつぶす。いずれにしても事業が成功する可能性は低くなる。

こんな「避けられる失敗」を避けるために、CTOは必要なのです。

池田信夫「イノベーションの経済学」第6章 ファイナンス:next global jungle

実際のいわゆるベンチャーや自営業は、日本でもアメリカでも自己資金でやるケースが多い。自己資金というのは自己責任だから、会社がパァーになってもあきらめがつくし、ほんとの最初のスタートする時点で1000万円とかあれば、大損しなければ会社は回る。

1000〜2000万円の自己資金さえあれば、会社を起こすことは不可能ではない。

だから、日本でもアメリカでもベンチャーは自己資本を持っているケースが多い。

Facebookのように一文も持っていない学生が寮でやるというのは極端な例。

実は、アメリカでも日本でも、会社を辞めた40代くらいのサラリーマンが、それまでに数千万円なり1億円なり貯めたお金を元手にやることが多い。後の付加的な部分を融資でまかなうのか、投資でまかなうのかというところで、ベンチャーのやり方が違ってくる。

...

中小企業金融公庫や国民生活金融公庫といった政府系の金融機関は低利融資をする。それをベンチャー企業の育成と言っている。

でも、そういうやり方ではベンチャー企業は絶対に育成できない。融資という形を取る限りは、結局、融資は返さなくてはならないので、ある程度の固いローリスク・ローリターンのビジネスしかやれっこない。

エクイティ型のビジネスで資金を調達しない限り、冒険的な仕事はできない。

行政の人は融資と投資の違いをきちんと理解していない。低利や無担保で融資すればベンチャー企業が育つと思っている人が多い。

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