「シンプル・デザイン」が経営にもたらすもの (CEO,CFO,CTO視点)

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「シンプル」とは「商品やサービスに、本質的価値が漏れなく含まれ、かつ余分なものがないこと」「独自のウリで一点突破できること」というのが前回の議論でした。今回は、これを経営的視点で論じます。

上述の「シンプル・デザインの効用」は、財務的には「新規事業のROI向上」につながります。投資を減らし、リターンの期待値−−−成功確率−−−を上げます。私がそう考える理由を説明します。

まず、シンプルなデザインの製品開発において「投資を減らせる理由」は、「コンテキスト」への投資を後回しにするからです(*1)。「コア」でユーザーからの好評を得て(一発あてて)から、事業拡大フェーズにおいてコンテキストに投資すればいい。新規事業のリリース時点で、コンテキストは無くてもいいので、大胆に手抜きをします。とくにWebなら、当初はβ版という位置づけで。

これによって、製品開発への投資を減らせます。

次に成功確率が上がると考えられる理由です。少し長くなります。まず、顧客の感じる本質的価値にフォーカスする過程で、ユーザー中心デザイン(UCD)を用います。

  • ターゲットとなる顧客の具体像(ペルソナ)を明確にします。
  • そのペルソナがプロダクトを利用する状況(シナリオ)も明確に定義します。
  • そこにどんなプロダクトを提供すればいいかを、デザインします。

もちろん、この組み合わせ自体が「仮説」です。ですから、一度で上手くいくことを前提にせず、仮説検証プロセスを実施しないといけない。(*2)

そのうえで「シンプル・デザイン」のメリットは、仮説の精度が高い点です。コンセプトを絞り込み、余計なものを省くことで、プロトタイピング(試作)という低コスト・短期間の仮説検証が可能になります。

開発の初期から、プロトタイプ(試作品)を作って、A/Bテスト(*3)を実施します。上手く行った方を基準(コントロール)にして、次のA/Bテストを実施します。仮説検証サイクル、PDCAサイクルです。

シンプルにすることで、仮説の精度が高まりますから、仮説を検証しやすい。失敗しても、何が悪かったか分かりやすいので、改善しやすい。つまり、仮説検証サイクルがスムーズに回ります。

その結果として、最終的な「正解」にたどり着く確率が高まるだけでなく、要する時間と投資額が減ります。リリースまでに何度も小さな失敗を繰り返しているので、リリースしてから大失敗する確率も、減ります。

これが「シンプル・デザイン」によって「成功確率が上がる」理由です。

このように、シンプルなデザインの製品開発は、より少ない投資で、より高い成功確率を狙うことにつながり、結果として「新規事業のROI向上」を達成します。これが、シンプル・デザインの経営的な意義です。

ただ、実践には知識と経験が必要です。

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(つづく:「シンプル・デザイン」の成否を握る経営マター「デザイン・マネジメント」


脚注

  • *1:関連記事 (1)シンプルとは、独自のウリで一点突破できること(※前回の記事:コアとコンテキストの区別), (2)新規事業投資、どこまで削れるか, (3)新規事業のリスクとコスト構造
  • *2:誤解の無いように補足します。「誰が」「どのように」「どんな製品を」使うのか、という構想を「仮説」と呼びました。これはユーザー中心デザイン(UCD)を採用したから「仮説」になるのではなく、どんな手法だろうと新製品開発は「仮説」である点、間違えないようにしてください。新製品には、「想定客層に売れない」「想定した使われ方をしない」というリスクがあります。UCDは、その想定しない状況へ対処する方法です。新製品をバクチにしないための。
  • *3:「A/Bテスト」または「スプリット・ラン」は、特定のパラメータだけを変えて同時並行的にテストすることです(例:同質のモニターを半分ずつに分けて、ある機能を追加する/しない2通りの製品について試用してもらう)。余談ですが、機能を「省く」ことで製品の魅力(顧客にとっての価値)が高まることは、少なくありません。

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このページは、ishibashiが2009年3月18日 18:03に書いたブログ記事です。

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