「シンプル・デザイン」の成否を握る経営マター「デザイン・マネジメント」

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「シンプル」とは「商品やサービスに、本質的価値が漏れなく含まれ、かつ余分なものがないこと」「独自のウリで一点突破できること」であり、「より少ない投資で、より高い成功確率を狙う」「新規事業のROI向上」につながる−−−というのが前回までの議論でした。しかし、その実践は簡単ではありません。

シンプル・デザインの実践にあたっては、クリエイティブ力が必要になってきます。とくに、強いコンセプトを出して、それをもとに開発過程(クリエイティブ・プロセス)をコントロールするディレクション力が。

※そのことを「クリエイティブ・ディレクション」と呼びます。その責任者がクリエイティブ・ディレクタですが、プロダクト・マネジャと言い換えても結構です。開発責任者の意味です。

コンセプトの完全性こそ、システムデザインにおいてもっとも重要な考慮点だと言いたい。一つの設計思想を反映していれば、統一性のない機能や改善点などは省いたシステムの方が、優れていてもそれぞれ独立していて調和のとれていないアイデアいっぱいのシステムよりましである。

人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない (Professional computing series (別巻3))

つまり、「捨てる技術」が必要です。機能要件に対する。

また、クリエイティブの意志決定を多数決でやると、シンプルになりにくい。いわば「独断」が必要です(*1)。

成功する製品を目指すのであれば、テスとして修正する必要がある。世界を変えうるような偉大な製品を目指すのであれば、明確なビジョンをもった人に推進させる必要がある。後者は、より財務的なリスクを伴うだろうが、偉大なものに通じる唯一の道なのである。
エモーショナル・デザイン―微笑を誘うモノたちのために

独断と独善は違います。「独善」とは単なる「ユーザー無視」であって、有害なだけです。「独断」とは、透徹した顧客視点・ユーザー視点のもとに、リスクをとって意志決定することです。機能を捨ててシンプルにする意志決定には、リスクを伴います。

ズバリ言ってしまうと既存機能に上乗せする企画は通すのが簡単だし、リスクが少ないからだ。多少使いにくくてもそれが売れない決定的理由にはなりづらいことから、(売れなかったときの)責任を問われる立案者・決裁者ともに「多少複雑になってもかまわず機能を上積みしていくこと」は保身のためを考えるとリスクが少ない手法というわけだ。逆に削ることは、安定した大企業の会社員としてはものすごい勇気がいる。下手すりゃ前モデルで20%あったシェアが5%とかに落ちてしまう可能性も高いわけで、そんな企画を立案した者(担当者)・通した者(決裁者)への風当たりが強くなることは避けられない。

結果、煮ても焼いても食えないUIのデジタル家電が出来上がってしまうのである。

機能やボタンが多すぎ!! 使いにくいUIのデジタル家電が発売されてしまう本当の理由 - キャズムを超えろ!

(※引用注:「デジタル家電」に限らず、あらゆる製品開発に通用するでしょう)

グループでリスクを取る意志決定はできない。だから、開発責任者という人がいる。その人の仕事は、独断することです。独断と、リスク・テイキングは、同じ意味です。

しかし、開発責任者に責任とインセンティブを与えるといった経営マターを解決しなければ、どうにもなりません。経営者が無理に「シンプル」を唱えると、カタチだけの「なんちゃってシンプル」が出来上がる可能性も高い。開発責任者は「上がやれって言ったから3月18日はシンプル記念日」といった言い訳を用意して取り組むことになる。これでは「仏作って魂入れず」になりかねない。(*2)

このように、「シンプル・デザイン」を実現するためには、「強いコンセプト」にもとづく「独断的クリエイティブ・ディレクション」が必要ですが、それを可能にするのは経営者なのです。経営者が「デザイン・マネジメント」という課題に取り組む必要があります。

結論:シンプルは一日にして成らず。

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脚注

  • *1:ドナルド・ノーマン氏は「財務的なリスクを伴う」と書いています。たしかに、リスクを無くすことはできません。しかし、適切な方法によって、リスクを抑えることは、できます。
  • *2:もし、あなたがインハウス・デザイナーで、「うちの上司・経営陣にも、こういうことを分かってもらいたいなあ」と考えているなら、一緒に攻略法を考えませんか? 気軽にメッセージください。Twitterやってます。もちろん、デザイナーに限らず、どなたでも。

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このページは、ishibashiが2009年3月18日 23:33に書いたブログ記事です。

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