コマーシャライザーがクリエイティブなプロにとっては物足りない理由

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コマーシャライザーの企画フェーズから携わったのですが、下記ご指摘の通りだと、私自身は考えています。

デザインのプロセスで考えると、iLifeはカタチにするまえの考え方を整理してそれをどう表現するか、というディレクター業に専念できるようになっていて、手を動かすデザインオペレーター業の部分はかなりソフトが肩代わりしてくれます.

コマーシャライザーの方は、どっちかというとディレクターもシステム側が用意して、利用者はクライアントの立場で素材だけ提供するようなカタチになってしまっていて、思考停止状態に陥りやすいようです.

言い換えるとアップルのソフトは、「クリエィティブなことをする手助けを丁寧にしてくれる」のに対して、コマーシャライザーは「パッと見のいいものを自動販売機的に提供する」事に終わっています.

二つのソフトを見比べて、そういうソフトの思想の違いを感じました.

item-s design blog: コマーシャライザー

まさに仰るような「思想(コンセプト)の違い」があります。

iMovieは、ツールとしては簡単です。しかし、クリエイティビティを要するため、それを発揮できない人にとっては「難しいソフト」でしょう。

これはツールの「使いやすさ」の問題ではないので、厄介です。どんなに使いやすさ(ユーザビリティ)を高めても、解決しない問題です。どんなに簡単なペイントソフトがあっても、誰もが上手に絵を描けるわけではない。これは「画用紙と色鉛筆」でも成立する議論です。むしろ「誰にでも使える道具なのに、上手い絵を描けない人がいる」という点が強調されるでしょう。

私は安易に物事を不可能だとは言いたくないので、「誰でも上手に絵を描けるような道具」を開発できる可能性が皆無だとは思いません。しかし、ずいぶん遠い未来になるだろうとは思います。

一方のコマーシャライザーは「iMovieですら難しいと感じる人たち」のためにデザインされています。そこにトレードオフが存在するのは当然で、iMovieで(iMovieを使うスキルのある人が)ちょこちょこっと作った動画にすら及ばないケースが多いとしても、仕方ないと思います。(弁明や反論ではなく、たんなる事実認識の表明です)

これは企画段階から割り切っていたことなのです。

なお、最後まで割り切ったコンセプトで開発できたのは、とてもよかったと思います。機能追加の誘惑に負けず、シンプルさを保ったクライアントの決断が重要でした。

強いコンセプトほど、一部の人々を排除する傾向があります(「万人向け」から遠ざかる、という意味)。行動経済学の「プロスペクト理論」によれば、人は「得るかもしれないもの」より、「失うかもしれないもの」のほうを過大評価する傾向があります。だから、割り切った決断は、難しいのでしょう。実感とも一致します。

さて、本記事の結論です。

「コマーシャライザーがクリエイティブなプロにとっては物足りない理由」それは「クリエイティビティを発揮する余地の無さ」です。

そして、それこそが「クリエイティビティを発揮できない人に受け入れてもらえた理由」でもあるはずです。

私自身は、クリステンセン教授の呼ぶ「破壊的イノベーション」にぴったり当てはまる事例だと考えています。従来のハイエンド製品(Final CutやiMovie)と比べればチープである点、動画編集の「無消費」を「新市場」に変えようとする点など、多くが符合します。

もちろん、偶然の符合ではなく、企画段階から破壊的イノベーション理論を意識していたからです。私自身の貢献度がどれほどかは分かりませんが、幾ばくかは貢献できたはずだと考えています(正直に言えば、あまり良くない提言もあったと思いますが)。実際にインタラクションをデザイン・実装した米谷田中の貢献は大きいと思います。違う人が作れば、かなり違ったものになったはずです。

開発から1年弱、冷静に振り返って総括してみました。

※将来への注記:コマーシャライザーは2008年6月の公開後も、どんどん追加開発・機能追加されており、その中には我々が関わっていない部分も増えてきています。この記事では、最もシンプルだった最初のバージョンを念頭に置いています。

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コメント(2)

スミマセン.引用元の記事を書いたものです.なんか失礼な事書いててすみません.
記事の意図としてはちょっと別にあって、別の所で議論になったので、そこでの私の補足の説明を転載します.

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コマーシャライザーは、本文でも述べている通り、CMの訴えたいこと、クライアントの特徴などをヌキにして外観(スタイリング)部分のみをつくる仕様になっています.
ですので、そういうコンセプト部分を練り込んだ上で制作をしないと、一見良くできているけど中身がスカスカのCMになってしまいます.

たとえ表現は稚拙でも製作者の意図が伝わるツールの方がお客に与えるインパクトは大きいし、商店の手描きのポップなど例は多くあります.

ちょっと意地の悪い見方ですが、コマーシャライザーは個人的にはジョークソフトとして良くできていると思っています.
その理由として、
・クライアントの問題:とにかく、自分が何を伝えたいのかよく分かっていない.CM会社に発注すればなんとかなると思っているので取りあえず発注してみた.出来たものは、とうぜんそいうい事を伝えていないのでどこにでもある様な内容だけど、さすがプロなので映像はしっかり出来ていて、なんとなくカッコよく見えているので良いかと思っている.高かったけど.
・製作者側の問題:クライアントにインタビューしても何をしたいのかよく解らないし、金額も安いのでそれほど時間もかけられない.しょうがないので、内容は無いけど以前の手法を組み合わせてハデな画像を持っていくと案外と喜んでくれた.こんなので良いのかと思いつつ、時間も予算もないので早くケリをつけたい.
という、ありがちなパターンをパロディ化してみせる、ジョークとしては面白いと思います.
サイトにも個人の宣伝など、その辺を理解して作っているジョーク系のものは意外と見れるものが多く有り笑えます.

どちらにせよこの手のソフト類はツールなので、ツールに振り回されてアウトプットの出力が変わるのは本末転倒です.どのソフトを使おうがしっかりと中身を考えてあるものでしたら、相手に効果的に伝わるCMになるとおもいます.
ですのでどれをとっても「このソフトを使えば「良い」CM動画が作れる」ということはあり得ないと思います.
一番危険なのはこのソフトの出来栄えを見て、「こんなものか」と満足してしまうことで、これは、クライアントは自分たちの仕事を貶めてしまうことになるし、CMディレクターは自分たちの仕事をキチンと説明できていないことになります.


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以上転載終わり


ポイントは何が「クリエイティビティ」なのか?ということになると思います.
キレイに画像をつないだりエフェクトをしたりというのがクリエイティビティではなく、何をどう伝えるか、というそれ以前の部分が重要になると思います.
逆にいうとよく分かっているクリエーターが使うには、手間も省けて良いソフトだと思っていますが、その辺の「デザイン」が解っていない人が使ってしまうと「デザインした気になってしまう」という危険性を感じて記事にしました.

動画のバリエーションも多くて楽しいし、サクっとできる手軽さもあるので、使い方を誤らなければ良いソフトだと思います.そういう「伝えること」を考えるやり方のレクチャーがあるとより良いツールになると思います.

ホジヲさま、コメントありがとうございます。

>その辺の「デザイン」が解っていない人が使ってしまうと「デザインした気になってしまう」という危険性を感じて記事にしました.

そういう「危険性」があるのは理解しています。ただ、コマーシャライザーの問題領域は、そういうことではないのだと思っています。

我々は、「デザイナーを雇う金がない」「デザインを覚えるヒマがない」という人のためのソリューションを目指しました。(無消費へのアプローチという意味です)

もちろん、改善の余地がないなどとは申しませんが、仰るような「ユーザーを教育する」みたいなことは、ちょっと違うかなと思います。それはコマーシャライザーのユーザーが求めているコアの価値ではないと思うんですよね。コンテキストだと思います。やったほうがいいけど、必須ではない、というレベルの。

see also: シンプルとは、独自のウリで一点突破できること (ZEROBASE BLOG)

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このページは、ishibashiが2009年4月24日 21:14に書いたブログ記事です。

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