ウェブタブレットという〈チープなオモチャ〉が破壊する家庭用PC市場

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ウェブタブレットはPC市場を〈破壊〉する可能性が高いと考えています。そこにどのような傾向(力学)が作用しているのか、一緒に考えてみましょう。

ウェブタブレットの将来

スティーブ・ジョブズ氏は「いずれPCを必要とする人は数人に一人になる」と言います:

 「例えば、この国が農業国だったころは、車はすべてトラックだった。農場で必要なものだったからだ」と同氏は言う。都市部が広がるにつれて乗用車が普及し、さらにパワーステアリングやオートマチックトランスミッションが広まった。

 Jobs氏は、「PCはトラックのようなものになるだろう」と述べる。同氏は、「PCはすぐにはなくならない」と考えるが、「PCを必要とする人は何人かに1人」だけになるとしている。

S・ジョブズ氏が語る「ポストPC時代」、Flash、グーグル--D: All Things Digital - CNET Japan

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私も同意見です。家庭においてPCを使う人は「数人に一人」になるでしょう。職場からPCが消えるのは、考えられないくらい先になると思いますが。

ウェブタブレットが家庭においてPCを追い出していくとしたら、それはどういう過程になるでしょうか。クリステンセン教授の〈破壊的イノベーション理論〉をもとに予見してみましょう。

PC市場のローエンド型破壊

いずれウェブタブレットの価格は2万円≒200ドル程度まで下がり、爆発的に普及するでしょう。〈破壊的イノベーション理論〉においては〈ローエンド型破壊〉と呼ばれる現象です。

すでにPCでウェブを活用している人々の多くが、「自宅にPCは必要ない」と手放して、ウェブタブレットだけの生活になるかもしれません。

ただし、現時点では普及の障害があります。PCユーザーは、PCと比較してウェブタブレットの出来ないこと(欠陥)に着目します。最初は手を出さないPCユーザーも多いでしょう。

ウェブタブレットは、普及につれて低価格化と高性能化が同時進行します。いずれPCユーザーも満足できる性能が、低価格で実現するでしょう。その過程でPCユーザーにも普及していきます。

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PC市場の新市場型破壊

ウェブタブレットを買うのは、PCユーザーだけではありません。PCを持っていない〈ノンPCユーザー〉たちも買うでしょう。PCの〈無消費者〉たちが、ウェブタブレットの初期の売上に貢献するでしょう。〈破壊的イノベーション理論〉における〈新市場型破壊〉です。

〈ノンPCユーザー〉がウェブタブレットを買う条件として、十分に使いやすい必要があります。それは、エキスパートの手を借りることなく、自分一人でも「買ってきて、箱から出して、すぐインターネットにつなげられる」といった手軽さです。

このような条件(使いやすさ)は、まだ実現されていません。現在唯一といえるウェブタブレット製品のiPadについて言えば、第一に、Flash Player非搭載のiPadで閲覧できないページが多数あります。第二に、「iTunesをインストールしたPC」と同期せずに単体で利用する場合、購入当初の期待を満足できない可能性が無視できません。この二つの課題が解消されれば、iPadは〈ノンPCユーザー〉にとって、もっと受け入れやすいものになるでしょう。

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チープなオモチャ

ウェブタブレットを「実用的ではない〈チープなオモチャ〉」と呼ぶPCユーザーがいます。その一方で、「欲しい」「私にも使えそう」と期待を隠せない〈ノンPCユーザー〉もいます。このように既存製品を使いこなす人と、そうでない人で評価が分かれるのは、破壊的イノベーションに典型的な現象です。

PCユーザーは、PCとウェブタブレットを比較して、出来ないこと(欠陥)を気にします。一方で、〈ノンPCユーザー〉は(PCという)比較対象を持ちません。主にその魅力にクローズ・アップします。「ウェブタブレットが〈私〉の生活にもたらす価値」が魅力です。

「〈無消費者〉が喜ぶ〈チープなオモチャ〉こそ、新市場を創出すると同時に、既存市場を破壊する」というのが〈破壊的イノベーション理論〉の含意です。〈チープなオモチャ〉という言葉は、「素人でも買える値段と、素人でも使える程度の低機能」という専門家による揶揄です。その「安さ」と「使いやすさ」こそ、〈無消費者〉の求めるものであり、それゆえ新市場型破壊の起爆剤となります。

破壊的イノベーションを〈チープなオモチャ〉と揶揄する既存消費者がいれば、価値を見出す無消費者もいます。どちらの価値評価が正しいのか、と問う意味はありません。価値は製品の属性ではなく、〈私〉と製品との関係から立ち現れます。したがって、〈私〉にとっての価値と、誰かにとっての価値は異なる。新市場型破壊とは「無消費者である〈私〉」と製品との「新しい関係」を作り出すことです。

製品の開発者や提供者は、製品を中心に据えて考えがちです。しかし、製品は消費者や利用者に出会ってはじめて意味を持ちます。製品と、一人ひとりの〈私〉たちとの関係のなかに、価値が見出されます。価値は〈私〉の認識であり、〈私〉による製品への意味付けです。

価値は製品に属さない

使いやすさのイノベーション

私がカフェでiPadを操作していると、素敵な年配のご夫人が「それがiPadっていうの?」と声をかけてこられました。「それで本も買えるのよね?」などと強い関心をお持ちで、しばし質問されました。その目には「〈私〉の生活に新しい価値をもたらしてくれるかもしれない製品」への期待が溢れていました。

NHK教育「趣味悠々」パソコン講座で12年間講師を担当なさってきた佐々木博氏の発言は、このようなウェブタブレットの可能性を端的に指摘しています:

いままでコンピュータで「何かをやりたい」と思っても、そのために「電源の入れ方」「マウスの触り方」「キーボードの触り方」などを勉強しないと、メールもインターネットも出来なかった。しかし、iPadのような新しいデバイスでは、電源を入れれば、すぐメールを見たりできる。マウスやキーボードを触らなくても、指で画面を触るだけで操作できる。そういった一つずつの煩わしいものを全部なくして、いちばんやりたいことだけに集中できるというのが、iPadのようなデバイスの魅力。

YouTube - 東京ITニュース 様々な業種が注目するiPad KORGとPC創造教育

「今まで手が届かなかった製品」を遠ざけているものは、「高い値段」と「とっつきにくさ(使用に必要な知識体系)」である場合が少なくありません。そのようなとき、「安くて使いやすい〈チープなオモチャ〉」が〈無消費者〉に受け入れられます。こうして新市場を開拓し、普及とともに高性能化する製品は、いずれ既存市場を〈破壊〉します。

おわりに

このようにして〈チープなオモチャ〉であるウェブタブレットが家庭用PC市場を〈破壊〉していくでしょう。アップルiPadに対抗して、グーグルAndroid搭載ウェブタブレットがPCメーカー各社から発売されることによって、この〈破壊〉は実現するはずです。ひょっとしたら、新興ベンチャー企業がウェブタブレットとともに急成長する過程で、既存PCメーカーの市場を破壊する、といった構図になるかもしれません。

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このブログ記事について

このページは、石橋秀仁が2010年6月12日 03:12に書いたブログ記事です。

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