Webアプリケーションをブラウザにインストールするというメタファ

ウェブ・アプリケーションを「インストール」するというメタファは、各サイトにおける面倒な利用登録(サイン・アップ)というプロセスを簡単化することにより普及するかもしれません。そうなれば、一元化された「アプリ・ストア」に対応したマーケティング・プランを考える必要が生じるでしょう。

Windowsにアプリケーションをインストールするように、あるいはアップルのApp StoreからアプリケーションをダウンロードしてiPhoneにインストールするように、WebブラウザにWebアプリケーションをインストールし、インストールしたアプリケーションを管理し、呼び出して実行するための標準仕様「Open Web Applications」をモジラが提案しました。

Webブラウザがまた一歩OSに近づく。「Webアプリケーションをブラウザにインストール」する標準仕様をMozillaが提案 - Publickey

ウェブ・アプリケーション(SaaS)のメリットの一つは、ソフトウェアの配布(distribution)を不要にすることでした。このような「ブラウザにアプリケーションをインストールする」というメタファは、ある意味では退行のように見えます。これについて考えてみたいと思います。

技術的にはOpenID/OAuthなどの機構による、いわゆるシングル・サインオンの基盤が整ってきています。従って、記事にあるような「アプリ・ストア」からワン・クリックで「ブラウザにアプリをインストールする」ことが可能になる条件は整いつつあります。そのためにはID、個人情報、決済などの連携が必要ですが、前述のように技術的には解決可能になりつつあります。あとは「普及するかどうか」の問題です。

以上は設計者・提供者の側からの議論でした。では、果たしてこれが普及するか(人々に受け入れられるか)という観点で点検してみたいところです。こればかりは実際にやってみなければ分かりませんが、いくつか論点を挙げておくことはできます。

前述のように、ウェブ・アプリケーションには本来「インストール」という手順が(技術的には)不要になっている、にもかかわらず、「アプリ・ストア」という探索/配布のプラットフォームを通じて「インストール」する手順を復活させる必要があるのでしょうか。利用者にとっての意味を考えてみましょう。

ポイントは、「インストール」というメタファの有効性ではないでしょうか。これはあくまでメタファです(実際には必要ないのですから)。つまり、利用者の認知に働き掛けるデザイン上の工夫です。

そういう風に問いを立てると、ウェブ・アプリケーションにおける「サインアップ(sign up)」というプロセスと、アプリ・ストアを通じた「インストール」の類似性に思い至ります。たいていのウェブ・アプリケーションでは、初回利用時に利用登録(サインアップ)が必要です。ウェブ・アプリケーション毎にアカウントを作成するのが普通です。利用登録のプロセスは、おおむねメールアドレスとパスワードを始めとする、いくつかの定型的な情報を入力することによって完了します。これは定型的なプロセスですから、「アプリ・ストア」を通じた「インストール」プロセスによって置き換えられるかもしれません。

この「インストール」というプロセスは、すでに普及している iPhone/Androidのアプリ・ストアと相似形です。したがって、従来の利用登録(サインアップ)プロセスが、より簡便になり、またアカウントを一括管理できるようになる、といったメリットが伝われば、このメタファは普及するかもしれません。

※技術的には、アプリ・ストアがウェブ・アプリケーションに開示する情報の範囲や、利用権限の付与ルールや、それを利用者自身がコントロールするためのインタフェイスの工夫など、様々な課題があります。

そのうえで、アプリの開発者や提供者の観点で言えば、販売・決済プロセスをアプリ・ストアに任せる前提でのマーケティング・プランを考えるのが課題になるでしょう。課金が容易になる一方で、審査(※もしあるとすれば)やユーザー・レビューと、どうつきあうか。

以上のような論点が、今後の「ウェブ・アプリ・ストア」の動向を考える上でのポイントではないかと思います。ほかにも重要なポイントがあるかもしれません。ご指摘いただければ幸いです。

追記(2011年7月21日):ID連携基盤技術としてのOpenID/OAuthの発展によりブラウザID(=ChromeならGoogleアカウント、SafariならApple ID、Internet ExplorerならWindows Live ID、Firefoxなら...なんだろう?)を使ってiOS(iPhone/iPad)的にアプリ(=ウェブサイト/ウェブサービス)をブラウザから集中管理できるようになるのはアリだと思います。

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