ビジネスには文学的素養が不可欠

第一に、良い戦略は良いストーリーでなければならない。ですから物語る力(ナラティブ)が必要です。第二に、良い戦略は〈他者〉への開かれた姿勢と感情移入から生まれる。これは文学的想像力の必要性です。第三に、未来を構想する際にも文学的想像力は役立ちます。とくにSF的な想像力が。

最近、物語る力(ナラティブ)や文学的素養(リテラチャー)について考えています。事業の構想において、とても大切なことだなあ、と。

もともと「理系」(という区分になんの意味があるかもわかりませんが)だった私が、このような内容を語るということは、その内容よりもむしろ「語る」という行為自体がある意味を持つでしょう。端的に言えば、典型的「理系」能力だけでは良い戦略を構想できない、ということを、「元理系」の立場から語ることになんらかの意味があるはずです。

以下、学者ではない私が語る言葉ですから、「普遍的な真理」などを語ったものではなく、個人的な「思い」であることを、あらかじめお断りしておきます。

ストーリーで伝える

良い戦略は、良いストーリーです。ロジックは、ストーリーとして表現されることで、理解しやすくなります。つまり、戦略のコンセプトを伝えて、実現していくためには、ストーリーを語る力、つまりナラティブが必要です。

実存的に語る

具体的な対象、「この人の役に立ちたい」という対象があるときに、戦略は具体的なストーリーになります。抽象的でふわふわした理論ではなく、具体的で実行しやすい戦略になります。

戦略は個人的な思いや共感から始まります。野中郁次郎氏は『流れを経営する』のなかでエーザイ社の例を出しています。

社員が病院での現場研修を経て、患者に共感し、この人の役に立ちたいと思う。その感情移入が、ユーザーの行動だけでなく内面までも注意深く観察させ、そこから新たな「問題」が発見される。

薬効だけでなく、使用・服用の状況での使いやすさ(ユーザビリティ)への問題意識が生まれる。問題意識があるから「問題」を見つけることができる。

あらゆる「問題発見」は、それを「問題」とみなす人の価値により「発見」されます。つまり客観的な問題など存在せず、すべての問題は人の価値観や思いから生まれるのです。

ならば、問題を発見し、解決しようとする人(とくに事業企画者やデザイナーなど)にとって、価値思い感情移入は極めて重要なはずです。

ここで補足しておきますが、「価値」という言葉を「経済的価値」のことだと解釈しないでください。それは二の次です。感性的価値、情緒的価値、社会的価値、倫理的価値、道徳的価値といった様々な「価値」があります。

「価値」の共有や共感が、事業を構想する根源にあるべきではないか、と思うのです。

ビジネスには「価値」についての議論が必要です。一人ひとりが自分の思想や哲学を語り、どのように社会と関わっていきたいのかという思いを語り合う。その思いは、例えば「アルツハイマーの患者さんの役に立ちたい」ということかもしれません。

そのような感情移入の対象は、どのようにして選ばれるのでしょうか。そこにはなんら合理的な理由はないのです。いわば偶然に、いわば何かの間違いで、たまたま出会ってしまう。そして心を奪われてしまう。

そのようにして新しい事業が始まるならば、事業を構想する人は、いつも〈他者〉に対して開かれている必要があるでしょう。感情移入の対象になりうる、来るべき〈他者〉を受け入れるために。

このように開かれた姿勢で〈他者〉に感情移入するためには、大いなる想像力が必要です。自分以外の他者の内面、実存的な悩みを想像し、共感する力。つまり文学的想像力です。

未来を構想する

問題解決としての構想力、よりよい未来を構想する「デザイン」においても、物語る力は必要です。

「ユーザーエクスペリエンスデザインにおけるストーリーテリング」も本質的には未来構想における文学的素養です。シンプルな助言としては、SFを読むことで構想力が高まります。

まとめ

戦略と文学について語ってきました。ここらで締めくくることにします。

第一に、良い戦略は良いストーリーでなければならない。ですから物語る力(ナラティブ)が必要です。

第二に、良い戦略は〈他者〉への開かれた姿勢と感情移入から生まれる。これは文学的想像力の必要性です。

第三に、未来を構想する際にも文学的想像力は役立ちます。とくにSF的な想像力が。

このように、ビジネスには文学的素養(リテラチャー)が不可欠だと思うのです。

おわりに

「文学や哲学を専攻しても就職できない」という世の中を変えていきましょう。企業と学校の双方で協力しながら、文学的素養をビジネスに活かす方法を模索していきましょう。

本件について広くご意見やご連絡お待ちしております。

追記

私はチームワークを重んじます。私はここで述べたような「素養」が、プロジェクトに一人分あればいいと思っています。誰かがそれを担えばいいのです。つまり、現在のビジネス環境では「役に立たない」とされがちな文系の専門性に、じつは活躍の場があるよと、光をあてたわけです。そもそも「ビジネスマンには文学的素養が不可欠」というタイトルではないのですが、一部の方には誤解を与えてしまったようですので補足しておきます。

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