ヒトと機械と情報についての酩酊哲学

ゼロベース不勉強会 #5 情報(2012年6月5日)で考えたこと、話したこと。Luciano FloridiのPhilosophy of Infomationとか、西垣通の基礎情報学とか。

昨日は不勉強会 #5 「情報」で酒を飲んだわけですが、それにもとづいて一筆。〔註:参加者の総意じゃないし、ぼくが不勉強会のあとで一人で考えたことも書いてます。〕

服毒本

「服毒本」ってのは課題図書みたいなもんですが、べつに読んでこなくてもいい、というテキトーなものです。

考えたこと/話したこと

基礎情報学はそれ自体では役に立たない。応用的な知や実践を、原理的に再検討する時に、役立つ。一般に「基礎○○学」はそーゆーもの。基礎デザイン学も。

読書を「情報のダウンロード」のように考えるのは誤りだし、「書いてあることを正しく理解すること」も大して重要ではない。自身の意味構造を変える体験に価値がある。「ダウンロード」や「理解」は、「読書体験」にとっては二次的な従属物に過ぎない。

最近は酒飲んで読書することにしてる。

日本人にとっては会議より飲み会のほうが大事だったりする。欧米人みたいに「近代的主体を確立して会議室で議論できるようになるべきだ」とか同意できない。日本人は酒飲んで非主体的に発言するときに大事なことを言ったり知ったり決めたりするもんだ。もはや昼間の会議にも酒が必要だね。

日本人の「見立て」の力はすごい。二次元児童ポルノに欲情するのも、成人による表現や所有を規制したくなるのも、ロボットのアトムが「ともだち」として現れるのも、アニミズムと密接に関わってると思うけど、根源的な「見立て」の力によるものだろう。欲望といってもいい。擬人化の欲望。これは「情報の意味解釈の多様性」にもとづく。

ちなみに欧米・一神教では「意味解釈の多様性」を嫌って「斉一性」を追求しがちだと思う。超越論的シニフィアンとか大きな物語とか象徴界の対象aみたいな。デリダとかはそれを批判したんだろうけど。

超自我/象徴界にあたるものが、自分の心を観察/記述する「観察者」としての「意識」「自己」といったもので、それが原-情報/生命情報/無意識から社会情報/意識を引き出すということなんじゃないかなー。という感じで基礎情報学と精神分析はけっこう似てる。

ぼくは日本人の「ものづくり」幻想に批判的だけども、それとは別の意味で、「意味解釈の多様性・身体性」(アフォーダンスとか散種とか原-情報とかの)観点で「ものづくり」にこだわることによる「脱言語化・身体化の思想」への道筋は面白いと思う。

ゼクシィを基礎情報学的にみれば、その読書体験はまさしくオートポイエティックな生命単位体としてのヒトの妄想が全面化しやすい瞬間。この物量がもたらす読書体験は、コミュニケーションの小包(パケット)モデルでは語れない。

ゼクシィの小倉優子インタビューを読みながら「ワタシ」と「カレ」について想像を膨らませてる人がいるときにテキストはコンスタティブでもパフォーマティブでもなくて「イメージを惹起するイメージ」として提示された情報だと思う。

「読書とは何か」を考える上でゼクシィは重要。

「記号の意味解釈の自由度」は「エクリチュールの意味の決定不可能性」に通じるというわけで西垣通の『基礎情報学』と東浩紀の『存在論的、郵便的』が近いことを言ってるなーと思った。

フロリディの Philosophy of Information は情報実在論で、西垣通の基礎情報学は情報関係論なので、公理からして違う。でも、けっこう同じようなことも言ってて、共通点が面白い。ただ、西垣さんは「機械情報による人間疎外を批判する」という目的のために「情報は人間との関係概念だ」と定義する(※)ことから始める。〔※ホントにそういう目的でそうしたのか知らんけどたぶんそういう学問的動機なんだろうと想像しました。〕

西垣氏は公理として「情報には人間が不可欠だ」というテーゼから出発することで「機械情報の氾濫による人間疎外」を批判するための準備を整えているわけで、「人間疎外」を批判して「人間中心」の情報化を訴求するという目的と整合的。

フロリディは情報が人間の外にある実在論だから、そこはすんなりいかない。とゆーかフロリディは「人間中心主義」批判になってるので真逆と言っていい。

例えば攻殻機動隊 - Ghost In The Shell - で「人形遣い」は「生命」か。西垣的には肯定で、フロリディ的には否定だろうな。攻殻機動隊S.A.C. 2nd GIGで難民をゴーストごと転送できるか。これも西垣的には否定で、フロリディ的には肯定だろう。タチコマにゴーストが宿るのか。これも同様。

で、ぼくはどう考えるかというと、機械情報化(ソフトウェア化)された「生命」「ヒト」「人間」というものは、われわれと同じような存在者としての「生命」「ヒト」「人間」ではない。そこは認められない。ただし、そのような「われわれのとは異なる存在の在り方」は認めていい。

だから、ぼくの友人が生身の身体を捨ててクラウドのなかで「生きる」ことを選んだとしたら、それをわれわれと同じような在り方の「生命」「ヒト」「人間」として認めることはできないけど、そこに「彼」の同一性を認めていい。つまり、「彼は人間を止めてソフトウェアになったのだ」という命題はぼくにとって有意味で、かつ正しい(つまり「真」だ)。

胃袋が考えていることを人間が理解できる情報として提示することにITを使うのがタイプIIIアプリケーションなんですよ。フロイトによる存在論的転回をもう一歩推し進めてindividualへの批判。

男性器を「息子」と呼ぶ民族は"individual"が擬制だなんてことくらい難解な現代思想を持ち出すまでもなく暗黙的に知っているわけで西欧に知的に遅れてるというコンプレックスなんて無用ですよ。

身体は独立した疎結合モジュールがバラバラに自律的に動いてるHACS(階層的自律コミュニケーションシステム)なのに、それを無理にindividualというフィクショナルなイデアに超自我/超越論的シニフィアン的にまとめあげるのが西欧近代的主体主義。男性諸君、ムスコの意見を尊重しよう。

西垣さんは「生産効率化としての情報化を推進すると『人間が不要』になるのであって、そんな情報化はおかしい!」というアツイ男だ。ぼくはそこに共感した。

フロリディはものすごくヘンなことを言ってるオモシロ哲学おじさんで、そこに引きつけられた。

そんな感じです。例によって酔っ払いの妄言でした。こんなことを酔っ払ってパッパラパーになりながらやいのやいの議論してる楽しい不勉強会にぜひご参加ください。

リンク

参考文献

Information: A Very Short Introduction

情報倫理においては倫理的言辞は、情報的に理解されるあらゆる存在者を考慮する。つまり人間や生物だけでなくanything that existsやanything that was but no moreも含む。情報倫理はあらゆるものevery instance of beingをmoral claimの中心に置く。infosphereに貢献する義務がある。entropyは悪。※やばい。

情報学的転回―IT社会のゆくえ

西垣通の人間観は生命流(生物・動物)と人間(個人)の二元論かも。
- "われわれは共生体であり、生命流をふくんだ情報ネットワークのいわば結節点である。その中で社会的なコミュニケーションが行われている。そして、コミュニケーションが滞りなく行われ、社会秩序が保たれるためには、個人というフィクションも必要なのだと考えなくてはいけない。責任というものをもう一度能動的につくり直していく必要がる。そういうふうに個人や責任という概念をとらえるべきです。"
- "われわれ一人ひとりは、実は六十兆個の細胞というオートポイエティック・システムの共生体です。そして、意識的にせよ、無意識的にせよ、生命流というものに参加しているわけです。/しかし一方、人間は社会をつくって、そこで意識的な個人というフィクションのもとに生活しているわけです。そういう両面から人間を理解することが大事です。"

Informatic Turn

基礎情報学―生命から社会へ

基礎情報学は哲学。「人間」ではなく「ヒト」から出発し、情報の意味作用に注目する。「意味をつくりだす存在としての生命」という生命観。脱テキスト中心主義。ヴァレラのオートポイエーシス論、ギブソンのアフォーダンス論、パースの三項図式、ホフマイヤーの生命記号論、ルーマンの社会システム論、ドブレのメディオロジー。※じつはシンプルなアイデアなのに、すげー難しいのは、同業者(プロ研究者)への目配りみたいな記述が多いからだと思った。

続 基礎情報学―「生命的組織」のために

情報学的転回は「人間中心ではなく生物中心」で、「人間の機械化を否定」し、ITと生命活動との新たな可能性を探る。組織の生命的な活性度を上げるためのタイプIIIアプリケーションを模索せよ。大量生産/大量消費と個人間の熾烈な市場競争にもとづくいわゆる知識社会とは異なる、集合知と共有財にもとづく近未来社会のイメージ。野中郁次郎の知識創造企業論、公文俊平の情報社会論との共鳴。

存在論的、郵便的―ジャック・デリダについて

東浩紀哲学の出発点。これを読めば『動物化するポストモダン』から『一般意志2.0』まで一貫した思想がうかがえる。人間と動物の二元論とか、エクリチュールの散種とか、郵便空間とか。コミュニケーションをおびやかす「誤配可能性」を「希望」に読み替えるその前向きな思想に共感。

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