「豊かさ」の主観化(および「HCD と UXD の違い」について)

HCD(人間中心設計 human-centered design)と UXD(利用者体験デザイン user-experience design)の違いについて。

「これをしなければ○○ではない」という必須手順が、HCD にはあります。UXDにはない。

HCD の場合は、

ISO 13407では、まず人間中心設計の必要性の特定を求めている。次に4つのステップを一連のプロセスとして回していく。   - 使用状況の理解と明示
- ユーザーと組織の要求事項の明示
- 設計による解決策の作成
- 要求事項に基づく設計の評価

※上記引用元『人間中心設計 - @IT情報マネジメント用語事典

 ユーザー観察、ユーザーのモデルづくり、デザイン、評価など、ひとつひとつの手法はすでに多くの方が実践していて、それぞれに関する情報も世の中に広がってきています。そうした個別の要素を上手くつなぐプロセスが人間中心設計なのです。

※上記引用元『人間中心設計(HCD)はプロセスであり手段ではない(コンセント長谷川氏インタビュー)/HCD-Net通信 #25 | Web担当者Forum

HCD は手法的。UXD は目的的。

HCD は UXD の必要条件ではないが、十分条件といって差し支えない。

つまり、HCD を妥当に実施すれば、UXD にならないほうが難しい

HCD は手法の問題で、UXD はデザイン領域と意志の問題。

かつてドナルド・ノーマンが UCD を提唱した頃は、"HCD" も「意志の問題」だったのでしょう。

「もっと利用者のことを考えて製品を設計しよう」というメッセージだったわけで。

でも、いまや HCD はオフィシャルでドライな概念になったと思ってます。

国際規格 ISO で HCD を定義したことがその象徴。

で、UXD の意志は「もっと利用者の主観的体験にフォーカスしてデザインしよう」ということですよね。

これは先進国で「豊かさ」の基準が、外形的な「電化製品三種の神器」とか「庭付き一戸建てマイホーム」とかいった画一的な価値観から多様化してきたこと、および価値が物質から精神にシフトしつつあることに対応していますね。

  • 「豊かさ」の多様化
  • 「豊かさ」の脱物質化

つまり〈「豊かさ」の主観化〉ですね。

UXD は主観化する「豊かさ」を捉まえるためのデザイン運動、として思想史的に位置づけることができますね。

UXD は一時的な流行ではなく、近代デザイン史的なスコープの大きな転回だと考えたほうがよいでしょう。

  • 20世紀初頭に、バウハウスに代表されるデザインの近代化運動
  • 20世紀後半に、大量消費社会の登場と、マーケティングと結託して消費の欲望を創造するデザインへの転回
  • 21世紀初頭に、「豊かさ」の主観化に対応するための UXD

UXD が他の二つに匹敵する転回だと考える理由は、〈「豊かさ」の主観化〉が「マス・マーケティングにより国民的欲望を喚起するデザイン・パラダイム」からの逸脱・離脱の運動だからです。

〈「豊かさ」の主観化〉は、従来の「消費社会のパラダイム自体は変わらず、単に欲望が多様化しただけ」ではない。そう考える理由が「脱物質化」です。先進国の中流世帯は、欲しいモノが少なく、より体験を重視するようになりつつある。これは大きな転回だと考えます。

最後にまとめっぽいことを言っとくと、

  • 「HCD と UXD の違い」は、後者はデザインへの意志の表明であるということ。
  • その意志とは〈「豊かさ」の主観化〉という社会変化にあわせてデザインの思想と手法を更新しなければならないという意志。
  • つまり UXD (ユーザーエクスペリエンスデザイン)は21世紀初頭の社会変化と深く関わるデザイン運動。

といった感じです。

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