第31回WebSig会議で講演しました(タブレットが与える影響について考える)

2012年12月1日(土)第31回WebSig会議「創り手が意識すべきタブレット,ユーザが使い始めるタブレット」でスピーチしました。客観的な予測や評論ではなく、望ましい未来像を描き、その実現に向けて人を巻き込むようなスピーチを目指しました。

概要

事前に公開したメモから大幅に変わりました。

  • ユーザーインターフェイスの進化
  • アーキテクチャの進化
  • デバイスの多様化
  • デバイスフリー化(コンテンツ/サービス)
  • アビリティ

という構成にしました。

ユーザーインターフェイスの進化

  • CUI
  • GUI
  • NUI

という歴史的文脈にタブレットを位置づけました。

UI の進化は結局のところ「透明化」の歴史です。道具を使っているときに、その道具が意識にのぼらなくなる、つまり「透明」な道具が理想であり、そのように進化してきたと考えられます。

眼鏡を使って物を見ているときに「いま眼鏡をかけている」と意識する必要はありません。箸を使って物を食べるときにも、箸を意識する必要はほとんどありません。指の延長、身体の一部であるように箸を使うことができます。

そのように「道具自体が意識に上らず、その道具によりアクセスする対象に意識を集中できる」ような「透明」な状態こそ、道具の理想的な状態です。

CUI → GUI → NUI という進化は、UI 透明化の歴史でした。UI 透明化のために、より多くのマシンパワーが UI に投じられてきました。例えば、iPhone の(俗に「ヌルヌル動く」)滑らかな画面スクロール描画を実現している GPU は、1997 年にチェスのグランド・マスター(ガルリ・カスパロフ)に勝利したスーパー・コンピューター Deep Blue よりも高い性能を持ちます。

〔※グラフィクス・プロセッシング・ユニット (GPU) はグラフィクス処理に特化した処理装置です。iPhone 5 に搭載された Apple A6 チップの GPU は 25.5 GFLOPS という処理能力を持ちます。一方、Deep Blue は 11.38 GFLOPS です(※チェス計算は浮動小数点演算より整数演算が主でしょうから FLOPS より MIPS かもしれませんが、まあいいでしょう)〕

アーキテクチャの進化

ネットワークを介したローカルマシン/リモートマシンの配置を歴史的に振り返りました。

  • コンソール(ダム端末)/ メインフレーム
  • クライアント(PC)/サーバー
  • ブラウザ(PC・ケータイ)/ウェブサーバー
  • アプリ(PC・スマホ・タブレット・その他の多様なデバイス)/クラウド

※「ブラウザ」は「アプリ」の一種とも言えます。

マシンパワーはずっと増えているはずなのに、「PCクライアント/サーバーアーキテクチャ」から「ブラウザ/サーバーアーキテクチャ」に移行したときに、ローカルのマシンパワーが減っているのがポイントです。マシンスペックは上がっているのに、ブラウザにはそれが引き出せなかったのです。例えば、ブラウザ上で Excel 相当のことができるようになったのは、ここ数年のことです(Writely = Google Docs や Google Spreadsheet の登場)。

UIとアーキテクチャは共進化します。それによりローカルは UI にマシンパワーを使い、UI 以外のロジックをリモートで処理するという分担が徐々に見えてきました。

今後もこの二分化は進むだろうと考えています。これは後述の「デバイスフリー化」とも共進化の関係にあるはずです。

デバイスの多様化

スマートフォンやタブレットの周辺機器が多様化していきます。それを後押しするように Fab や Make のようなハードウェア開発ムーブメントがありますし、 Kickstarter や Campfire のようなクラウドファンディングのムーブメントもあります。

ちなみに、講演当日の12月1日には、お台場の日本科学未来館で Maker Faire Tokyo 2012 が開催されていました。翌日には私も参加してきました。とても楽しかったし、次は出展者として参加したいと思いました。

ハードウェア開発の敷居が下がるなかで、コンテンツやサービスに携わるウェブ開発者も、ハードウェア込みでの企画・設計に取り組める時代になりつつあります。「ネット連動デバイス」を作ることは現実的選択肢になってきています。

つまり、「デバイスの多様化」とは「既製品として多様なデバイスが流通する」という話ではなく、「あなたも多様なハードウェアのエコシステムに参加することができるのだ」というメッセージとして受け取って頂きたいのです。

デバイスフリー化

デバイスが多様になると、いちいち個別対応などやってられなくなります。コスト面で合理的とは言えません。

そこで、「特定のデバイスに個別対応していく」という考え方から、「特定のデバイスに依存しない(デバイスフリー)ようにする」というアーキテクチャ(設計様式)への転換が重要になります。

デバイスフリー化を推進するためには多様な技術が必要になります。

  • マークアップ:HTML5 / RWD (responsive web design) / PE (progressive enhancement)
  • セマンティクス:Web標準 / XML
  • オブジェクトモデリング:UML / DDD (domain-driven design)
  • API連携:JSON / REST / SOA (service-oriented architecture)
  • ID連携:OpenID / OAuth

これらのなかには、いわゆる IA (情報アーキテクト)にとっては馴染みの薄い概念もあるかもしれません。ですから、IA と IT アーキテクトの協業が大事なのです。

同じ「アーキテクト」を名乗り、同じようなものを作ろうとしているのに、協業が少ない(断絶している)現状はおかしいと言わざるをえません。お互いに共通言語を作る努力をしましょう。IA はオブジェクト指向設計や UML を学び、IT アーキテクトは HCD (人間中心設計)やワイヤフレームを学ぶといった具合に。

アビリティ

  • ユーザビリティ
  • アクセシビリティ
  • リーダビリティ
  • ファインダビリティ

「なんとかビリティ」がたくさんあります。要するに、何か「できなかったこと」が、「できるようになる」ことを指しています。つまり「アビリティ」と総称して差し支えないのです。

ウェブの専門家の仕事は何か。所属・雇い主・クライアントと関係なく、一人の専門家としてウェブや社会に対峙したときに、自分の使命を何であると語れるか。「ウェブのアビリティを高めることだ」と胸を張って言えるのは素敵なことではないでしょうか。

とはいえ、アビリティ(とくにアクセシビリティ)向上のための予算を、それ単体の名目で獲得するのは難しいでしょう。いきおい「現場の良心」「職業倫理」に頼りがちですが、お金が回らない活動は持続可能性が低い。

ですから、ビジネスメリットの言葉で予算を獲得することも大事です。そのために、5つの概念(キーワード)を上げておきます。これらの概念は互いに深い関係にあります。「デバイスフリー化でアビリティを高めること」を様々な観点から言い換えているだけです:

  • デバイスフリー化 → デバイスに依存しないことによって、コンテンツへのアクセシビリティが高まる。5年、10年のスパンで保守費が安くなる。
  • 未知のハードウェアでも利用できる → (「デバイスフリー化」の言い換え)
  • クロスチャネル化 → 様々なチャネル(伝達経路)をまたいでサービスを提供し、それらをまたぐ(クロスチャネルな)顧客の体験を向上させたい企業にとって、まず複数のチャネルでサービスを提供する投資が必要。あらかじめサービスをデバイスフリー化・ API 化しておくことで、クロスチャネル化のトータルコストは下がる。(※そのためには IA と IT アーキテクトの協力が欠かせない)
  • プラットフォーム化 → リモートロジックを分厚く、ローカル UI を「ダム端末」化する。リモートをウェブサービスプラットフォーム化することで、ロジックが共通化され、多様な UI の提供がローコストになる。
  • オープンイノベーション → API の一般公開、ないしは提携企業への限定公開など、システム連携による社外とのコラボレーションを実施する際に、そもそもウェブサービスが API 化されていればローコストで実現できる。

これらのビジネスメリットでアビリティ向上予算を獲得しましょう。タブレットをはじめとしたデバイスの多様化というトレンドは、その追い風です。

各自が自分の持ち場で「ウェブのアビリティを向上させる」ことによって、雇い主やクライアントを満足させるだけでなく、「よりよいウェブ」「よりよい社会」を作ることに貢献していきましょう。

といったお話をさせて頂きました。機会を与えてくださった WebSig24/7 の運営者、参加者のみなさんに感謝します。

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