アクセシビリティは〈裏技〉として普及する

不自由(disability)は利用状況(context of use)によります。この視座で「障がい者」と「健常者」の二分法を超えてアクセシビリティを当事者的に語る道筋が見えてきます。その鍵は〈裏技〉です。

【注】「不自由」という言葉を、英語の "disability/disabled" の訳語として用います。「状況」は "context" に対応し、「利用状況」は "context of use" に対応します。なお、"disability" には「障がい(者)」という意味もありますが、この文章ではもっぱら「...する能力の欠如」という意味で用いています。言い換えると、「障がい者という人」よりも「不自由な利用状況」に注目する視座から論じています。もちろん、それだけでは不十分な極論です。二つの視座を併用する前提で、片方の視座に注目した議論を展開します。

第4回アクセシビリティキャンプ東京に参加しました。

どうすればウェブ全体のアクセシビリティ水準を向上させられるのだろうか、という問題意識で、グループに分かれて議論しました。テーマは「アクセシビリティのリブランディング」です。

例によって、議事録やサマリーではありません。私が考えたことを書きました。

前置き

「アクセシビリティ」には二つの側面があります。第一に「身体障がい者」などの「人」の属性にもとづく「アイデンティティ」という側面、そして彼らの「政治」という側面です。簡単に言うと、団結して、アクセシビリティ向上について政治家にロビイングする、といった話です。

「アクセシビリティ」の第二の側面は、人と機械の関係性における「不自由の解消」という側面です。人と機械の関係性において、能力の限界や不足を問題にします。以降、こちらの側面に注目していきます。

その狙いは「不自由」(disability)を「アイデンティティ」の問題から切り離すことです。それによって見えてくる新しい景色を展望します。

もちろん「アイデンティティとしての不自由=障がい者(disability)」の観点も重要です。それを否定するわけではありません。二つの観点を併用すればよい、という立場からの議論です。

不自由と利用状況

まずは定義しておきます。「不自由」とは、「人と人工物の関係における、利用能力の欠如」です。言い換えると「利用状況における利用能力の欠如」です。

(もしこの表現が難しくても、そのまま読み進めて頂いて問題ありません。言葉を変えて繰り返しますので)

利用者には不自由の責任がない、ということになります。たまたま、ある利用状況において、不自由が「発生」しただけですから。

不自由の発生は、「どんな利用者が、どんな物を、どんな状況で利用したか」によるのです。

例えば、「iPadでクックパッドのレシピを利用する」という利用状況において、「両手ともに画面に触れることができない」という不自由が生じるとします。

「その不自由は、誰に生じるのでしょうか?」という問いは、本質的ではありません。

指が動かない人、腕が無い人、調理中の「健常者」など、様々な人に不自由な利用状況が生じます。個人の属性は関係ないのです。不自由な状況に陥りやすい人や、いつも陥っている人がいるのは確かですが...... いったんこういうふうに考えてみてください。

ちなみに、私は震災直後に花粉症でほとんどMacやiPhoneの画面が見られないほど視力が低下してしまいました。そのとき、「不自由は誰にでも訪れる可能性があるのだ」と気付きました。

それに加えて、今回の議論を通じて新たな気付きがありました。何かが「できない」という状況は、あまりにも誰もの身の回りにあふれている、ということに気付いたのです。運転中、入浴中、移動中といった、日常の様々な局面で、何かの利用が「不自由」になっているのは日常茶飯事です。

すでにつねに我々の誰もが「不自由」と生きているのです。ここに「アクセシビリティ」をめぐる当事者性の拡大が見込めます。いわば「プチ不自由」のような観点を持つことで、アクセシビリティ(という言葉を使うかどうかはともかく)は万人にとってグッと身近になります。

また、「日常のプチ不自由を見つけて解決する」という考え方は、人間中心設計のデザイン・プロセスにおけるエスノグラフィと相性がよいはずです。このとき「使いやすいものを作る」(ユーザビリティ向上)活動と、アクセシビリティ向上活動が、一致します。「アクセシビリティ予算の獲得」という難題が解消します。

そして〈裏技〉です。

〈裏技〉としての啓蒙

iPhoneの支援機能を活用している「健常者」がいます。いわゆる「Tips」や「裏技」として認知され、活用されています。ここに「当事者性」を広げていくためのヒントがあります。

「iPadでクックパッドのレシピを利用する際に指が使えない」といった「プチ不自由」を解決する手段として、「指が使えないときに音声でiPadを操作する裏技」を発信すれば、多くの利用者に届くはずです。

少なくとも「アクセシビリティ機能」や「障がい者向け」といって発信するよりは、ずっと多くの人に届きやすいでしょう。しかも、ただ「届く」だけではなく、「自分事」として届きます。多くの人がアクセシビリティ情報を当事者として受け取ることになります。

「指が使えないときに音声でiPadを操作する裏技」の活用シーンとしては、「両手が塞がっている」「料理中」「入浴中」などがあります。それに加えて、指や腕に障がいを持つ人が利用する場合も含まれることになります。

〈裏技〉という言い方ならば、我々は「障がい者」「健常者」の二分法を克服してアクセシビリティを語ることができます。ある〈裏技〉の利用者が「障がい者」か「健常者」かは関係ないのですから。ただ単に、ある「不自由」を共有する人々が、同じ〈裏技〉を使っているだけです。

さらに、人々の〈裏技〉リテラシーが向上すれば、コンテンツやサービスの提供者も〈裏技〉を意識するようになるでしょう。アクセシビリティへの投資につながります。

〈裏技〉普及の第一歩

ウェブ制作者やウェブ担当者がすぐに始められる第一歩としては、自分が関わっているウェブサイトの「よくある質問」「ヘルプ」に、〈裏技〉を追加することでしょう。

いずれは〈裏技〉データベースも作りたいですね。アクセシビリティ・キャンプでハッカソンなどの機会があれば参加したいと思います。

結論

「アクセシビリティ」のリブランディングは「ウラワザビリティ」である!

(結論はドヤ顔で)

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