デザイン(設計)の最近のブログ記事

4.95%の学生が投票して第18位だそうです。ちなみに昨年は15位。"Design Thinking"がビジネスの常識として定着しつつある、ということでしょうか。 via IDEO Named a Top MBA Employer by Fortune Magazine

デザイン思考が世界を変える―イノベーションを導く新しい考え方 (ハヤカワ新書juice)

Powered by POPit

iPadを契機に〈タッチ式タブレット〉という製品カテゴリが立ち上がる可能性があります。〈タッチ式タブレット〉は、従来の「コンピューティング」の枠を超え、生活に入り込めるものです。膨大な「ノン"PC"ユーザー」が、日常的に、当たり前に、生活の一部としてウェブを活用し始める契機になるでしょう。

※追記(2010年6月11日)iPad的製品カテゴリの名称は? →「ウェブタブレット」など。

お断り:本記事ではパーソナル・コンピューティングの側面(とくに仕事以外での)について論じています。

余暇と姿勢

私はCrunchPadが巨大ビジネスになるとは始めから思っていなかった。ソファにのんびり座ってインターネットを楽しめるような手頃なタブレット・コンピュータが欲しかっただけだ。

Michael Arrington

crunchpadfinal.jpg

cdba.jpg

さて、iPad発表の前に、TechCrunchがCrunchPadというデバイスを開発していました。プロジェクト自体は発売前に残念な事件がありましたが、そのコンセプトは素晴らしいものでした。

ソファにのんびり座ってインターネットを楽しめるような手頃なタブレット・コンピュータ

なぜこのコンセプトが素晴らしいか?

それは、ウェブサイトや動画コンテンツを楽しむための〈姿勢〉・〈身体性〉に着目しているからです。とくに、仕事や作業ではない、純粋に余暇のためのデバイスというコンセプトの新しさです。

※それ以前にもChumbyなどの様々なデバイスが提案されてきましたが、iPadは初の大規模成功事例になるでしょう。

"PC"の暗黙の前提

「従来型のPC」あるいは「狭義のPC」の特質を確認しておきます。

我々は、ウェブサイトにアクセスしたり、動画を視聴したり、という行為(余暇的コンピューティング)を"PC"という道具で行ってきました。それが当たり前でした。我々には、"PC"か携帯電話か、二通りの選択肢しかなかったのですから。

しかし、"PC"や携帯電話を用いたそれらの行為には無理がありました。そのことは、iPadやCrunchPadなどの「タッチ式タブレットデバイス」が提案されることで浮き彫りになりました。

携帯電話における無理矢理さは、端的にその画面の小ささに由来します。

無理な姿勢

PCにおける無理矢理さを考える上では、まずPCがどのように設計されているかを確認する必要があります。

PCは"VDT (Visual Display Terminal)"とも呼ばれますが、事務作業の道具です。

  • 人間工学的に長時間の作業に適した姿勢をサポートするデスクとチェア
  • デスクに水平に設置された入力装置(キーボードとマウス)
  • デスクに垂直に設置された出力装置(画面)

vdt.gif

図版引用元:VDT Workstation Design Guidelines | Environmental Health and Safety | University of Pittsburgh

さて、そのうえで、次のように考えてみてください。

我々は常にデスクで雑誌を読むでしょうか?

我々は常にデスクでテレビを観るでしょうか?

多くの人はリビングのソファで、あるいはベッドに寝ころんで、雑誌やテレビを楽しみます。もちろん、デスクを使うこともあるでしょうけれど、気分(モード)に応じた姿勢を自然に取ります。くつろぎたければ、自然とソファに腰掛けたりするものです。

これで"PC"や携帯電話による余暇的コンピューティングの「無理矢理さ」がお分かりになったでしょう。我々は事務作業のための"PC"によって余暇的コンピューティングを楽しんでいました。例えばYouTubeを視聴したり。しかし、それは「行為に適していないデバイス」で無理矢理に行っていたに過ぎない、と言えるのではないでしょうか。

余暇のリラックスした姿勢とは、ソファに深く腰掛けたり、ベッドに寝そべった姿勢です。そのような姿勢でデスクトップPCを用いることはできませんし、ノートPCも不自由です。(実際にやってみればすぐ分かることです)

また、そのようなリラックスした状況に適しているのがタブレットデバイスです。iPadでYouTubeを視聴する体験は(PCでのそれに比べて)素晴らしいものです。

タブレットの再発見

ここで疑問を持たれるかもしれません。「これまでもWindowsのタブレットPCはあった。どう違うのか?」と。これまでのタブレットPCは、あくまで事務作業の道具でした。余暇のためのデバイスではなかったのです。

iPadは単にタッチ式タブレットというだけではなく、「余暇に重きを置いたデザイン」によって新たなコンピューティングの領域を切り開く点において革新的なのです。iPadはリビングやベッドルームでのんびり使うのに適しています。Safariでウェブサイトを読んだり、YouTubeで動画を見たり、電子書籍を読んだり。

「ノンPCユーザー」とユーザーインタフェイス

iPadは、キーボードアレルギーの人でも使える〈パーソナル・コンピューター〉になるでしょう。

ここで本記事初の〈パーソナル・コンピューター〉という表記を用いました。ここまで"PC"という表記で意味していたのは、狭義の、従来型の、事務機器としてのPCですが、それは〈パーソナル・コンピューティング〉の一側面に過ぎません(オフコン→ミニコン→ワークステーション→PCというOA史における「一人一台」化)。そこでは〈パーソナル・コンピューティング〉の余暇的側面が失われています。

もちろん自宅で余暇のために"PC"を用いる人々は日本に数千万人いるでしょう。しかし、そうしない人々も同じく数千万人いるでしょう。"PC"ユーザーはあたかも飽和したかのようですが、自宅における余暇としての〈パーソナル・コンピューティング〉がどれほど飽和したと言えるのでしょう? iPad後の情報通信を考える上で、この広大な未開拓市場に思いを馳せないわけにはいきません。

iPadは、この点でも革新的です。このブログを読んでいる方々は、当たり前にキーボードを使いこなしていると思いますが、キーボードを触りたくないという人は少なくありません。そして、ウェブのコンテンツを楽しむだけなら、キーボードは大して必要ないはずなのです。

したがってデバイスの設計としてはiPadのようにソフトウェア・キーボードで十分です。また、ウェブサイトのほうも、なるべく煩わしいキーボード入力をせずに楽しめるナビゲーションをデザインしていくことができます。

画面を直接触って操作する。このユーザーインタフェイスの革新は、もっと人々に寄り添った〈パーソナル・コンピューティング〉の契機となるはずです。

まとめ

iPadは (1) 余暇の姿勢に適した形状 (2) 画面を直接触って操作する易しいユーザーインタフェイスによって、〈パーソナル・コンピューティング〉の地平を広げるでしょう。

メッセージ

iPadを始めとするタッチ式タブレットデバイスの登場によって、ウェブ・アーキテクトは生活に寄り添った提案をする機会を与えられました。この大変革の時期に、次のパーソナル・コンピューティングを定義するのは我々です。有意義な仕事をしましょう。

関連記事

私は次のような現象に関心があります。ある戯曲が、稽古や上演を通じて、つまり脚本家・演出家・役者・観客のインタラクション(相互作用)を通じて「書き換え」られていく過程。その過程の分析から「共創」へのヒントが得られるのではないだろうか、と直感しています。

江渡浩一郎『パターン、Wiki、XP ~時を超えた創造の原則』は「無名の質」を追い求めた三人の「設計者」たちの物語です。この物語の(私にとっての)主人公である建築家クリストファー・アレグザンダーは、計画主義を批判する懐疑主義精神の持ち主です。その思想遍歴は経済学者フリードリヒ・ハイエクを彷彿とさせます。
ペーパープロトタイピングは有効な手法ですが、ことソーシャルウェブサービスにおいては、あまり有効ではないかもしれません。それよりは、実機による迅速なプロトタイピングのほうが有効だと考えています。